猫の恩返し-7
驚きのあまり龍二の呼吸が一瞬止まった。
榊原翼は取引現場で茉莉に会っている。
あわてて顔に巻いてある包帯やガーゼを整える。
必死に冷静さを取り戻すべく呼吸を再開して自分を落ち着かせる。
「あなたが竹内組の新しい密偵ね。
九蘭から聞いているわ。それにしても若いのね。いくつ?」
茉莉の言葉に、龍二は状況を察した。
茉莉は目の前の若者が龍二であることを知らない。
少し緊張のとれた龍二は、改めて茉莉の姿を見る。
(相変わらずいい女だ。少し痩せたか…?)
わずか数か月会わない期間があっただけだが、妙に懐かしく、そしてさらに愛おしく感じていた。
だが名乗らない。九蘭の判断は正しい。
なぜなら名乗ったところで状況は変わらない。
茉莉は信じないだろうし、信じたとしても榊原翼の自分と茉莉がもう一度愛し合える関係には戻らない。
「でも少し期待しちゃった。
優さんと九蘭が龍二が帰ってきたとか言って慰めてくれるから、もしかしたら扉を開けたら龍二がいるかもって少し思っちゃった。
あ、ごめんね。こっちの話。気にしないで。」
茉莉の寂しそうな笑顔に龍二の胸は締め付けられる。
しかしこみ上げてくる感情を飲み込んで、
【あなたの今の立ち位置を教えてくれ】
と筆談する。
「そうね、わかったわ。
知っての通り私の店は元々は山辰組のシノギだったんだけど、今は山崎組に乗っ取られている状況。
もちろん今も山辰の田辺の親分とはつながっているけど、私を使ってシノギをしているのは山崎組って現実なの。」
茉莉の言葉の後、龍二はすかさず、
【そのシノギってのはクレイモアだな?】
と問い詰める。
「そう、ドラッグの仲介が私の役目。」
とあっさり認めた。
【あんたも使っているのか?】
龍二自身、勇気のいる質問だ。
「数回だけ使ったことはある。
でもあんなの若者がハイになって遊ぶような薬なの。
あんなものがこんなに売れるなんて信じられないってのが本音。」
と茉莉が真顔で答える。
その答えに龍二は少しの安堵感を覚えた。




