龍の翼-9
収監が2年を過ぎた頃、龍二はすっかり竹内になついていた。
「おっちゃん、ヤクザの親分なんだろ?」
そんな軽口を叩く龍二に、竹内はいかつい風貌を笑顔で崩しながら相手をしていた。
【荒ぶる獣王】との異名で、警察や国家権力には怒涛の如く反攻を繰り返してきた竹内。
日本最大のヤクザ組織である極東一家の幹部まで上り詰めたのは、武闘派の竹内が組の内外で組織を守ってきたからである。
そんな竹内だが、本来の彼は非常に温厚な性格で、義理堅く優しい男であった。
だから、若衆からの人望も厚い。
こうやって龍二のような【小僧】の話をにこやかに聞いているのが本来の穏やかな竹内の姿である。
それは竹内の仮出所が決まった日のことだった。
午前の作業を終えた竹内のもとに、龍二が駆け寄る。
「おっちゃん、出所するんだって?さみしくなるな。」
龍二の言葉に、
「リュウ。てめえもこんなところ早く出ろ。」
と、頭をぐしゃぐしゃ撫でてからかう。
その光景に、看守も含めた周囲の受刑者にも笑いが起きていた。
そんな和やかなときの中で、龍二は一瞬の【感覚】に襲われた。
それは兵士として培われた第六感とも言うべき空気の変化。
この場に【殺意】の気概を出す者の気配。
その男は竹内のすぐそばにいた。
手には作業用のノミが持たれている。
最近入ってきた新顔で、物静かで目立たない男。
龍二の体が自然に動く。
男はノミを強く握り竹中まで一気に間合いを詰めた。
「おっちゃん、避けろ!」
龍二が叫びながら二人の間に入る。
「竹内いいいいい!死ねやああああああ!」
男のノミが竹内の腹部に向かって軌道に乗る。
突然のことで驚いたかのような表情になるが、竹内はさっと身構える。
しかし男の方が早い。
男が確実に手応えを感じて驚く。
男の目の前で腹部にノミが刺さっているのは竹内ではなく龍二であった。
龍二は男の手をノミから引き剥がし、手首とひじを逆手に捻り、関節を固める。
慌てて看守が男を取り押さえる。
身動きを封じられた男は言葉にならない奇声を上げている。
「おい、リュウ!?」
竹内が叫ぶ。
腹から血が作業服を染み出し、ぽたぽたと床に落ちていく。
龍二は竹内の無事を確認するかのように一瞥して、その場に倒れ気を失った。




