98匹海上保安船物語
海上保安庁令が公布され、白い船体が頻繁に公海上に姿を現すように成ると…。
アメリカ海軍関係者が衝撃を受けた。
「日本海軍がアメリカの駆逐艦を使っている…。」
直ぐにホワイトハウスは駐米大使の松平全権大使を呼び出した。
「おはようございます、長官閣下、提督閣下もお揃いで。」
背広姿で背筋を伸ばし、15度の礼を行い入室する日本大使。
背は低いが丸顔でも口や目に走る皺により屈強な意思を持つ男の笑顔だ。
苦い顔で迎えるアメリカ海軍の将校と商務長官。
「おはよう、大使。早速だが日本海軍が新たに設置した艦隊について説明していただきたい。」
早速テーブルに着く大使。
机を挟んで向かい合う帝国同士。
次官がカバンから書類の束を出した。
「はい、大日本帝国海上保安庁は内務省内に新たに創設した海上通行の安全を目的とした公海上での警察機構であります。」
ハキハキと答える大使に一層疑念が高まった。
今回、大使を呼び出した理由は言っていない。
つまり日本政府が事前に察知して用意された公式な発表を読み上げているのでしかない。
「ソレに…。アメリカ製の船が使われている様子だが…。」
海軍の重鎮が質問する。
「はい。民間造船所から使える船体が纏まった数がある。との申し出を受け。予算内で調達しました。外国の駆逐艦であったという話です。」
「わが海軍の艦艇だ。」
「ご安心ください、内務省の予算で調達され。改装は民間の造船所で行われ就航しました。海軍の造船所は関わっておりません。」
「日本海軍に組み入れられるのでは?」
「元々、アメリカのコーストガードの様な組織を…。と言う要望に応え、アメリカの理念を元に内務省で編成されました、無論、海軍とは組織上の関係がありませんが…。人材的な問題で海軍陸軍経験者が多いのが現状です。何れかは独自の隊員育成を目指す積りです。」
「しかし…。」
海軍の将官の発言の最後に商務長官が話す。
「アメリカ合衆国の資産が議会の意を添わない顛末を迎えるのは困る、アレは屑鉄となり熔かされ。貴国の橋や鉄道になる成ると思っていた。平和利用されると考えていた。」
駆逐艦の姿で存在するのが問題なのだ。
コーストガードはアメリカ海軍とは別の軍だが戦時には海軍の下部組織となる。
「日本海軍の下部組織ではないのか?」
「はい、違います。今まで海軍の仕事を肩代わりしております。水路や標識の整備、灯台の設置と管理。違法な船舶の取り締まり。海難救助も含まれております。違いは徴税官が乗っていない程度でしょうか?」
コーストガードと同じ理念だ、
「随分と…。大使は詳しい様子だな…。」
「はい、元々は外務省の下部組織、南洋庁からの強い要望で作られた組織です、外務省も内務省も…。作業を引き継ぐに当たって海軍も関係しております。」
「南洋庁?」
「はい、大日本帝国は大戦で太平洋南方の島々をドイツから引き継ぎました。之を運営する組織です。ああ、手土産ですが皆さんにどうぞ。」
同じポストカードが10枚、大使の手から渡される。
あて先は無い新品だ。
裏は青い空に海に浮かぶアメリカ製の駆逐艦、真っ白な船体に赤い文字で恐ら日本語で所属を示す…。
艦首にはインペリアルジャパニーズコーストガードの文字とPB-004船体番号だろう。
白黒写真に彩色は手塗りのポストカードだ。
「船体はそのままだが…。武装は?」
大使の次官が書類を大使に差し出す。
受け取る大使はそのまま書類を読み上げる。
「えー、四インチ砲が一門と歩兵銃が数丁です。」
「煙突の数が減っている様子だが…。」
「はい、ボイラー管は2つと在りますね。」
「最高速度は?」
海軍将官から厳しい質問が飛ぶ。
「…。申し訳ございません書いてありません。」
手元の書類を一読して答えた大使。
「20ノット出ないだろう…。」「16ノット出せるかも怪しい。」「4インチ一門では何の戦力にもならない。」
将校達が小声で会話する。
「あくまで我が国、領海と接続海域、国際法の公海上の安全を保障する措置のため組織であり、アメリカ合衆国コーストガードに習い、海軍ではない内務省の下部組織であり水路の調査、海上取締りを行う艦隊です。」
「艦隊…。」「海軍ではない警察組織なのか?」
「公海上での活動では警察組織を超えます、武装が無いのも心許ない、残念ながら海賊が出没する海域もあります。」
「自衛のための最低限の武装なのは理解した。海上戦には使われないのか?」
「はい…。アメリカの事例に習い、グレートホワイトフリートの世界一周に見習い船体は白い色に統一しております。」
平然と痛い所を突いてくる日本大使。
アメリカ海軍戦艦群による世界一周は訓練と友好の為に行われた…。
公式にはそう言っている。
実際はロシアに勝った日本への圧力なのだ。
「新設された海上保安庁は体制が整った後、USCGとの艦隊共同訓練を希望しております。それほどお待たせしないと信じております。」
公海上の安全は支配国の責任だ。
アメリカ製の中古軍艦とはいえ彼等の利用用途は明確だ。
公海上の安全確保は国際貢献であり海洋国家の義務なのだ。
「…。」「…。」「…。」
腹立たしいが日本大使の答えは我々を黙らせるのに十分だった。




