97.奈津子の話 35
「ローズ、タロとなんかあったの?」
屋敷のローズの部屋に戻ってから聞くと、ローズは困ったように笑った。
「昨日の夜タロとヒイロの会話聞いちゃったんだよね。」
ローズによるとタロは昨日の夜この屋敷に帰ってきて、玄関ホールでヒイロと言い争いをしていたらしい。
「婚約者が寝込んでいるのになんで見舞いにこないんだとかそんな感じだった。」
「それは・・・真っ当な意見だね。」
「うん。でもそんな話してる中に出ていけないじゃない? だからマダムの部屋にもう一回戻ってさ・・・」
「ん? ローズはそれまで何してたの?」
「マダムの部屋で二人で話してた。マダムからはヒイロをよろしくねって言うどっちかっていうと売り込みみたいな話をされてたからさ、これはもうちゃんと聞こうと思ってUターンしてマダムに聞いたんだ。”ヒイロの婚約者について詳しく伺いたいんですが”って。」
「本人に聞くより信用できるね。」
「でしょ? 結論から言うとマダムはヒイロの婚約者はタロとくっつけばいいと思ってるみたい。元々大昔の口約束で別に相手がヒイロである必要はないからって。母親的には跡取り息子の嫁は病弱な子より平民でも元気な子がいいんだって言ってた。」
「・・・マダムぶっちゃけるねぇ。」
「ホントだよね。笑っちゃった。」
ローズはそう言って苦笑した。
「タロってなんか遠い親戚に心酔してる軍の人がいるらしくって、その人の言うこと以外あんまり聞かないらしいのよ。だから学園卒業したらすぐ軍に入ってそのまま帰ってこないんじゃないかって心配してた。せめて知ってる人と結婚してほしいとか、なんか色々言ってたな。」
「マダム酔ってたの?」
「酔ってた。最終的には愚痴になってた。息子の初恋を応援したいみたいなことも言ってたから、親心は複雑なのかもね。」
「応援したいならとっとと婚約の相手変えたらいいのに。」
「お相手はどうやらヒイロのことが好きみたいよ。」
「うわっ! 三角関係だ!」
「うん。元々は子ども同士が結婚してくれたら楽しいよねーぐらいのノリだったらしいんだけど、今となっては親はどうすることもできないって泣いてた。」
「え、泣くの?」
「マダムお酒弱いみたい。」
なんだかなー。今の話を聞くと一番悪いのはヒイロだな。私はソファーに座りなおした。
「結局みんなヒイロの行動待ちってことだよね?」
「そう・・・だね。」
「ヒイロがちゃんとその婚約者の子を振ってローズとくっつけば方々が丸く収まるんじゃないの?」
「それだと相手の子が振られちゃうし・・・別にヒイロが私とくっつくかもわかんないし。」
「え、そうだっけ?」
ローズは無言で横にあったクッションを抱きしめて言った。
「それにヒイロだって私のこと好きかわかんないし・・・」
は?
「ローズついこの間ヒイロは私のこと好きって言ってなかったっけ?」
「その時はそう思ってたけど、だんだん違うような気がしてきた。」
ローズは膝の上のクッションをむにむにと揉んでいる。どうしたんだこの子は。
「そうなの? でも好きじゃなかったらこんな所まで呼ばないんじゃないの?」
「ナツコのついでに呼ばれたんじゃないかな。なんかこの家の仕事手伝ってるんでしょ?」
「手伝ってるけど・・・」
「女の子一人じゃ呼びずらいから私も一緒にってなったんじゃないのかな。」
なぜか拗ねているローズは可愛いが、私は大混乱していた。この短い間になんでこうなった?
「・・・本気で言ってるの?」
「わかんない。」
ローズはそう言うとクッションに顔を埋めてしまった。私はその姿を見て途方に暮れた。これはあれか? 恋の病ってやつか? でたらめすぎないか? 薬はあるのか?
黙ってしまったローズを見ながら色々考える。
そもそも恋ってなんだ? 私したことあったっけ? 大昔はアイドルに憧れたり二次元にハマったりしたけど・・・こんな好き嫌い好きみたいなことしたことあったっけ??
考えたがよくわからなかったので話を変えることにした。
「タロに王都においでって言ったのはなんだったの?」
「・・・前に話した時、なんかすごく必死に強くならなきゃ、みんなを守らなきゃって思ってる感じがしたから。別にタロに守ってもらわなくても世界はどうにかなってるって言いたくて。」
なかなか辛辣だ。だがローズほどの魔法の力があるからこそ言えるのかもしれない。
「・・・お見舞いとか・・・行ってみる?」
「どこに?」
「その、婚約者の子の所に。」
ローズは信じられないものを見る目で私を見た。
「え、何で? 知り合いでもないのに。」
「友達の婚約者なら知り合いみたいなもんじゃない?」
「いやいやいや違うでしょ! そんな人に急に来られても困るでしょ!」
普段の私ならここで引くが、あえて押してみることにした。
「確かにタロの言う通り、せっかく里帰りしてるんだから婚約者に挨拶に行かない方がおかしいと思うのよ。でもヒイロは客を呼んでるからそれを置いて一人で行き辛いんじゃないないかな。だからこっちが気を使ってみんなで行くってのはありじゃない?」
「ありじゃない!」
ローズは即座に否定したが、その後少し何かを考えているようだった。
「でも・・・確かに私たちのせいで婚約者の子がヒイロの会えないのは良くないよね・・・」
ローズはしばらくして顔を上げて言った。
「わかった。ヒイロにお見舞いに行くようにいってみる。きっと相手の子待ってると思うから。」
「ローズは行かないの?」
「行かないでしょ普通。」
ローズは苦笑した。「でも気づかせてくれてありがとう。間接的にでも誰かを泣かして自分たちだけ楽しむなんてダメだよね。ヒイロにちょっと言ってくるよ。」
「ツンデレずに言える?」
「何それ? あ、でももうお昼だから昼食後の方がいいか。私ちょっとシャワー浴びるね。」
ローズがバタバタとし始めたので私も席を立って自分の部屋へと戻った。今日の昼ごはんは何だろう。しかし私の知らないところでローズには色々イベントが起きてるんだなぁ・・・さすがヒロイン。羨ましくはないけれどなんだか楽しそうだ。




