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【完結済】生まれ変わったのに始まりません!  作者: 紫藤しと
第三章

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93.奈津子の話 31

 次の日は一日中雨で、四人でボードゲームをして過ごした。


「弟くんは今日何してるの? 一緒にやればいいのに。」


 ローズがそう言うとヒイロは軽く顔をしかめた。


「あいつは・・・多分稽古してるか剣作ってるから。」


「へえ、雨なのに外で稽古してるの?」


「まさか。うちは屋根付きの稽古場があるよ。一応何人も優秀な人間を軍に送り出してるし。」


「そろそろタロにお兄ちゃん抜かされるんじゃないの? 無茶苦茶稽古してるって聞いたけど。」


 パプルの揶揄うような声にヒイロは本気で嫌そうな顔をした。


「まさか・・・さすがにまだ勝てると思うよ。あいつまだ十四だし。」


「ヒイロ、学園内でも剣強い方だもんね。」


 ローズが宥めるように言った。


「軍の幹部からもその気になったらいつでも歓迎するって言われてる。まだ弟には負けないさ。」


「でも本気で戦ったことないんだろ? いい機会だから一度やってみたらいいじゃん。」


 三人でパプルを睨んだがパプルは堪えてないようだった。というよりわざとヒイロを挑発しているのだろう。面倒くさいやつだ。


「十四の弟に勝ったってなんの自慢にもならないよ。それよりパプルの番だぞ。」


 ヒイロがさいころを押しやるとパプルは渋々といった感じでゲームを再開した。ゲームはなぜか私がぶっちぎりで一番になり、ヒイロが二番、パプルが三番、ローズが最下位だった。


「ね、もう一回しよ! もう一回!」


 ローズの可愛らしいおねだりに男子はデレデレと目尻を下げ、結局一日ゲームをして終わった。


 翌朝雨はすっかり上がっていていい天気になりそうだった。昨日は一日中ゲームをしていたのでふと散歩にでかけたくなった。ローズを誘おうかとも思ったがたまには一人もいいかと思いなおし一人で屋敷の外にでかけた。


 雨上がりのいい匂いに深呼吸した。ヒイロの家の外は一面の芝生だった。かなり遠くに木々が見える。管理が大変だろうな。


「貴族ってやつは・・・」


 独り言を言いながら濡れた芝生の上を歩く。太陽がすでに眩しい。今日は暑くなるだろう。


 そんな事を思いながらぼんやり歩いていると後ろから急に声をかけられた。


「何してんの?」


 振り向くとくすんだ赤毛の男の子だった。ヒイロの弟、タロ。


「びっくりした! え、何?」


「何って・・・聞いたのはこっちだけど。」


 態度も声もぶらっきぼうだ。だが十四歳だと思うと可愛く見える。


「あ、散歩してたの。ダメだった?」


「ダメじゃないけど・・・いやダメだろ。女が一人で傘もささずに。」


「傘?」


「日傘。・・・女は日傘がないと日向あるけないんだろ?」


 不思議なことを言う子だと思って首を傾げると、タロも首を傾げた。ちょっと可愛い。


「・・・もうすぐもっと日差しきつくなるから。早く帰った方がいいよ。」


 そういうとタロは私の横をすり抜けて林の方へ歩き出した。私はすっかり面白い気分になってタロの後を追いかけた。


「どこ行くの?」


 タロは胡散臭そうな顔をしただけで返事しなかった。追いつけないほどのスピードではなかったのでそのままついていくと、タロは木々の中に入っていった。日陰に入ると冷んやりとしている。きちんと人の手が入っているので特に歩きづらい所もなかった。


「どこまでついてくんの?」


 タロが振り返って嫌そうな顔で私を見た。


「うーん、暇つぶしだから気にしないで。」


 タロは益々嫌そうな顔で私を見たが何も言わずにまた歩き出した。するとほどなくして小さなピンクの花が咲いている空間に出た。


「わ、可愛い!」 


 思わず声を上げた私を無視してタロは花を摘み始めた。直径一センチぐらいの小さな丸い花だ。茎も短いので豪華な花束はできないが、集めれば可愛らしいブーケになるだろう。


「・・・誰かにあげるの?」


 タロは一瞬こっちを睨んだが返事しなかった。


「あ、わかった彼女だ。やるねぇ。」


「・・・ただの見舞いだよ。」


「お見舞い? 誰かが具合悪いの?」


「隣の領地の奴が、風邪ひいたって言うから。」


 隣の領地・・・普通に考えたら相手も貴族だろう。ピンクの小ぶりの花をわざわざ選ぶあたり相手は若い女性じゃないだろうか。ということは・・・・


「婚約者?」


 タロが顔を上げてはっきりとこちらを睨んだ。今までとは違う敵意のある睨み方だ。


「・・・兄貴のな。」


 それだけ言うとタロは立ち上がってさっさと屋敷の方へ歩き出した。


「その花! 根元に濡らした布巻いて持っていくと長持ちすると思う。」


 タロは一瞬振り返り少しだけ頭を下げると速足で行ってしまった。しかしヒイロの婚約者か・・・しかもタロはそこ娘を好きかも知れないのか。なかなか難儀だなぁ・・・


「いや? 上手いことなってるのでは?」


 ローズとヒイロがくっつき、タロとヒイロの婚約者がくっつけば全く問題がない。いやパプルが余るけど。


「仕方ないよね。」


 私は一人で納得すると座ってピンクの花を見つめた。摘んでいきたい気もするが沢山は咲いていないので残しておいた方がいいだろう。


 林から出て芝生を歩くと強烈な日差しが降ってきた。屋敷の方からメイドが走ってくるのが見える。どうしたのかと見ているとメイドは私の所へきて何かございましたかと言った。


「いえ別に・・・散歩したくて。」


 メイドは特に文句も言わずに日傘をさしてくれた。人に傘をささせて歩くというのにドギマギして走り出したくなるのを我慢するのが大変だった。私に貴族は難しい。


 妙に疲れて自分の部屋に戻ろうとすると廊下でローズに会った。


「あ、ナツコ。どこ行ってたの?」


「散歩。・・・ちょっといい?」


 私はそう言うと自分の部屋にローズを誘った。


「どうしたの?」


「ローズはヒイロの婚約者についてなにか聞いてる?」


 部屋に入るなり質問してみる。ローズは唸りながらソファーに座った。


「ヒイロはそういうの喋らないからなぁ。隣の領地の貴族とは家族ぐるみの付き合いだっていうのは言ってた。たぶんそこに婚約者がいるんだろうなとは思ってるけど、確認はしてない。」


 知ってたのか流石ローズ。


「たぶんそれで合ってる。あとタロはそのヒイロの婚約者のこと好きみたい。」


「ふーん?」


 ローズは首を傾げて何かを考えているようだった。


 そこで急に我に返った。私は何を言いたかったんだろう。ちょうどいいからヒイロとくっつけばとか?


「なるほどね・・・ありがとう。色々わかったかも。」


 ローズは一人で頷いている。


「ヒイロって弟に対してなんかコンプレックス抱えてる感じがしたんだけど、そういうことかもね。どうもあのタロって子若いのにかなり剣の腕が立つらしいのよ。おまけに自分の婚約者と自分より仲がいいってなると色々複雑なんだろうね。自分の居場所が全部取られそうみたいな。」


 言われてみると私もなんとなく心当たりがあった。顔も良くて生徒会長で剣も強いのに、どことなく不安そうな顔をするときがある。自信家なのにたまに見せるそのギャップがいいのかもしれない。私は萌えないけど。


「ちなみにパプルの婚約者は?」


「あっちはお互い全然好きじゃないみたい。むしろ嫌われてるってパプルは言ってた。あっちはあっちで自分になびかない婚約者に対して思うところがあるみたいよ。・・・みんな色々拗らせてるよねぇ。」


 他人事のように言うローズに少し笑ってしまった。ローズだってその中に入ってるのに。もちろん私もだけど。


「・・・で、どっちが好きなの?」


 何度目かになる私の質問にローズは怒ったふりをして答えなかった。

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