92.奈津子の話㉚
ヒイロ母ことマダムはとても奇麗な服と沢山の使用人で出迎えてくれた。とたんに私とローズの着ている服がみすぼらしく思えて焦る。完全に貴族と町娘だ。学園に制服がある理由を痛感した。
「二人に渡したいものがあるの。」
席に着くなりマダムは嬉しそうに言った。一人のメイドが白い布をローズに手渡した。ローズが広げるとそれは真っ白なドレスだった。
「これはね昔仕立てようとしていた服なんだけど、悪阻がひどくなったから仮縫いのままになっていたドレスなの。ローズに似合うと思うのだけど、どうかしら?」
ローズが立ち上がって服を胸に当てた。まるでウェディングドレスのようだ。この世界にはそんなものないけれど。
「素敵ですね!」
ローズの頬が紅潮している。確かにむらさきのドレスより似合っていると思う。
「ただ真っ白というのも寂しいから、赤い花を沢山散りばめたら可愛いと思うのだけどどうかしら。」
マダムの言葉を聞いて失笑してしまった。なんてことはない、パプルの色であるむらさきのドレスが気に食わないので、自分たちの赤い色を着せたいのだろう。息子の思いも反映させているに違いない。
「可愛いと思います!」
ローズは知ってか知らずか嬉しそうだ。ローズが嬉しいなら私も嬉しい。
「ナツコにはこちらを。」
違うメイドから今度は黒い布を渡された。広げてみるとチャイナドレスだった。この世界に中国あるの? 混乱しているとマダムが言った。
「ちょっと変わったデザインでしょう。私が若い時に流行ったのよ。あなたに似合うと思うの。」
黒いシルクのような滑らかな生地に、赤で植物や花の模様が刺繍されているかなりゴージャスなドレスだ。本当に私に似合うだろうか。
首を傾げているとマダムに着てみるように促された。部屋の隅に衝立が二つ用意されていたのでローズとそれぞれに入って着替えた。細そうに見えた服は伸縮性があって意外とピッタリとサイズがあった。
衝立から出るとマダムは手を叩いて喜んでくれた。
「素敵ね! やっぱり似合うと思ったのよ!」
促されて鏡を見ると思った以上に似合っていた。横のスリットも膝上から始まっておりセクシー過ぎずいい感じだ。履いているサンダルがみすぼらしいのは見ないことにする。
ローズがなかなか出てこないので衝立越しに聞くと、どうやらサイズが合わないらしい。だが気に入ったとのことでその場で採寸が始まった。私はいいと断ろうとしたがどうやらピッタリとしたドレスはミリ単位で寸法を合わせるものらしい。
お昼前だからお腹は空くし立ちっぱなしだしでうんざりしてきた頃ようやく解放された。
そのまま部屋で三人で昼食を食べ色々な話をした。マダムはとても好意的だった。花嫁候補かもしれないローズはともかく、私にも優しいので正直裏を感じたほどだ。
「今日の夜から雨になるそうよ。王都とは違ってこちらは随分涼しいでしょ? 風邪なんてひかなければいいのだけれど。」
「そうですね・・・聞いてはいましたが思ったより涼しくてビックリしました。」
マダムの言葉にローズが悪戯っぽっく微笑んだ。
「もし王都用の服しかないようであれば、部屋のクローゼットに入っている服を何でも着て頂戴ね。」
私は無言でローズと視線を交わした。金持ちすごい。
その後はマダムが通っていた時代の王立学園の事などを聞いて過ごした。どうやらマダムは去年の演奏会に来ていたらしい。
「私も合唱の授業を取っていてね・・・とても楽しかった。ヒイロもあの頃の私たちみたいに楽しんでくれると嬉しいのだけれど。」
マダムは夢見るように微笑んだ。
「楽しんでると思います。剣も強いし、友達も多いし。」
ローズの言葉に一緒になって頷いておいた。正直私はヒイロが生徒会以外で何をしているのかよく知らない。
「それは良かったわ。・・・こんなに可愛らしいお嬢さんを連れてくるぐらいだもの。きっと楽しんでるわね。」
マダムはそう言うと意味深な目で私たちを見た。どういう意味かはわからないので愛想笑いで誤魔化した。
その後マダムはお昼寝するというのでローズと二人、マダムの部屋を後にした。どこに行っていいのかわからないので取り合えずローズの部屋に戻った。
クローゼット開けると私の部屋にあったのと同じようなシャツワンピースが三枚あった。いずれもゆったりしていてウェストは紐で結ぶタイプだ。どんな体形でも大丈夫なように用意してくれたのだろう。その横にはローズが家から持ってきたらしい服がかかっていた。残念ながら質が違うので並んでいると値段の差がわかる。
「金持ちってなんでもぽんぽんくれるよねぇ。」
一緒にクローゼットを見ていたローズが言った。
「最初は貧乏人に施しでもしてるつもりなのかと思ったけど、多分違うね。余裕があると人間物に執着しなくなるってことみたいね。」
ローズは肩をすくめて言うとドスンとソファーに腰を下ろした。
「うちの親は今頃夜営業の準備してる時間だけど、世の中には寝てる人もいる。不思議なもんよね。昔はそれが羨ましくて仕方なかったけど・・・今も羨ましいけど・・・それが全てじゃないかもって思うようになった。たぶんこれも私に余裕がでてきたからだろうし。」
そう言ってローズはじっと自分の手を見た。
「この間の魔法の試験、私一位だったんだけど、結局それってパプルが参加しなかったからなんだよね。すごくがっかりしちゃった。私は本気で次こそパプルに勝つつもりだったのに、パプルはもう私と真剣に戦う気はないみたい。どうも私を本気で好きになったみたいよ、パプル。」
「うん?」
話の流れがよくわからず私は首を傾げながら相槌をうった。
「ヒイロも私のこと好きみたい。両方どっちでも選べるってなったらなんか第三の選択もありかなって思ったり。」
私は無言でローズの横に座り、ローズのおでこをビシッと叩いた。
「調子乗りすぎ。」
ローズは弾けた様に笑った。
「ごめん。確かに、私性格悪いね。」
そういうとしばらく一人で笑い続けた。
「あーナツコがいて良かった。ちょっと目が覚めたわ。・・・うん、ありがと。」
私を真っすぐに見て笑うローズは間違いなくヒロインだ。男の一人や二人手玉に取って当然の美少女だが、その前に友人にはなるべく誠実でいて欲しい。
乙女ゲームのヒロインには難しいかもしれないが。




