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【完結済】生まれ変わったのに始まりません!  作者: 紫藤しと
第三章

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88.奈津子の話㉖

 四月、入学式の日は素晴らしい晴天だった。桜も満開からちょうど散り始めている時期で、校舎前の桜並木は絵に描いたように美しかった。たぶん本来は絵なんだろうなと思いながら道を歩く。去年とは違って隣には友人がいる。


「晴れて良かったねー。」


 ローズが気持ちよさそうに伸びをした。私たちはこの後入学式でヒイロが挨拶するのを見守り、その後カフェテリアで細やかな平民の為の歓迎パーティを開く。飲み物と簡単な食事だけだが、楽しい会になるといい。


 入学式の間、私はひそかにクロを探したが見つけられなかった。髪で顔を半分隠しているとはいえ、やはり見る人が見ると親が誰かわかってしまうのかもしれない。それともそもそもそんな人は存在していないのか。


 新入生がガイダンスを受けている間、先にカフェテリアに行くと既に準備は万端だった。ただ乾杯用に薄いアルコールが用意されていたので、頼んで水に変えてもらった。平民にとっては真水はちょっと高い。私が初めてカフェテリアに来た時、一番驚いたのはおいしい水がサービスで出てくることだった。新入生もきっと喜んでくれるはずだ。


 出席者が全員揃ったのでヒイロが挨拶を始めた。入学おめでとう、心から歓迎するというありふれた挨拶だったが、新入生の女の子の内何人かは顔を赤くしてヒイロを見つめていた。そういえば生徒会メンバーは私以外全員後光がさすタイプの美形ぞろいだった。最近忘れていたけど。


 挨拶の後は軽く食事を摘まみつつ、沢山の人と話した。私とローズは主に女子と、男子は主に男子と。大体は純朴で真面目そうな子だったが、一名オドオドしてろくに食事を取っていない子がいたので私はため息をついてその子に近づいた。


「ルビー、今食べないと夜まで食べられないよ?」


「でもお姉さま、私人が多い所苦手で・・・」


 ルビーが上目遣いに私を見た。この子も後光は指していないがかなりの美少女だ。同じ寮に入ってきたので私の後輩でもある。髪は銀髪、目は赤。肌も抜けるように白かったのでアルビノを疑ったが、この世界ではよくあるただの色素が人間離れしたタイプらしい。まあ髪がピンクや紫よりはまだあり得る。


 仕方なくルビーの手を引っ張って行ってサンドイッチを握らせた。はむはむ食べているのを見ているとルビーの見た目に惹かれたらしい女子が話しかけてきた。美人は何もしてなくても構われて得だなあと思いながらその場を離れ、別の居心地悪そうにしている子に話しかけに行く。


 会場の隅から見ると私以外の生徒会メンバーはそれぞれ何人もの一年生に囲まれていた。まるでアイドルとファンだ。私の周りにはアイドルの元には行けないタイプの子たちが不安げに今後の生活について話し合っている。なるべく不安が解消できるように話しているとあっという間に時間は過ぎた。


 ヒイロとブルウはこの後新入生歓迎会にも出席すると慌ただしく帰ってしまったので、私はパプルとローズと一緒に改めて結局ほとんど食べられなかった昼食を食べに出かけた。


 寮に戻るとルビーがむくれた顔で待っていた。


「お姉さま酷いです!」


「なにが・・・?」


「私のことほっといて違う人とばっかり話して!」


 何だか嫉妬深い嫁をもらった気分だ。


「私はホスト側なんだから仕方ないでしょ。」


 なおもブーブー文句を言っているルビーを見てため息をついた。


 この子がこの寮に来たのは三日前だ。平民で試験に合格し寮の持ち主であるタタン様に声をかけられてやってきた。私の部屋は二階の卒業した三年生の部屋に変わり、ルビーは先日まで私がいた一階の部屋に住むことになった。


 初めての後輩が嬉しくて色々話しかけたが、最初からこの子はおかしかった。まず”直射日光”がわからないという。直射って言わないかな・・・と思いながらも太陽の光を長時間浴びると言い換えるとやっと伝わった。だが次は”日常生活”がわからないと言う。


 かなり困惑した。どうやって入学試験を突破したのかと。戸惑っているとルビーはフッと笑って「これはやり過ぎですか?」と言った。


 そう、ルビーはかなりの困ったちゃんだった。


 聞けばオドオドと物を知らないフリをしている方が色々と都合がよいのだと言う。


「あ、でも勉強ができないのは本当ですよ。読み書き苦手です。」


「どうやって入学したのよ。魔力?」


「いえ、名前を書いただけです。」


 そして自分は見た目で入ったと言い切った。証拠にすでにドレスを発注しており、出来上がり次第タタン様と色々なパーティに出席することになっているらしい。


「私タタン様とパーティなんか行ったことないけど・・・」


「お姉さまは天才って聞いてます。私とは種類が違うんです。」


 種類・・・言葉遣いも気になるが、勉強もできない魔力もない平民が入学していることがショックだった。入学試験前、各地から来て必死で勉強していた子たちを思い出す。だがこの世界で勉強ができるのはそもそもその環境に恵まれた運がいい子どもだけであり、この子も見た目に恵まれた運がいい子だと考えれば・・・なんとか、納得できるかな・・・


「私孤児ですし、どうせスケベな金持ちに買われるなら高い値段の方がいいじゃないですか。王立学園生徒ってだけで箔がつくので私にとっても好都合なんですよ。・・・お姉さま? どうかしましたか?」


「・・・言いたいことは色々あるけど、そのお姉さまってのは何?」


「年上の女性はこう呼ぶと機嫌が良くなるので。」


 もう何も言う気が失せて私はその場を後にした。だが同じ寮なので逃げるわけにもいかず、その後しばらくルビーにまとわりつかれた。去年の睨みつけられたり逃げられたりする生活とは真逆の一年になりそうだ。

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