82.奈津子の話⑳
二月の中旬、後期試験が終わった。実質これ以降は自由登校という名の春休みだが、朝から生徒会室に呼び出されていた。卒業パーティと新入生歓迎会の打ち合わせをするという。
「で、私たちがすることって何かあるの?」
ローズが不思議そうに言った。ヒイロが微笑む。
「進行補助として去年までは色々していたらしいけど、まあ、僕たちはそういうのはいいんじゃないかな。」
それは雑用はやりたくないという意味だろうか。私もやりたくないから別に突っこまないけど。
「じゃあ何するの? また俺らで演奏でもする?」
パプルが楽し気に言った。
「ちゃんとした楽団がくるから必要ないよ。それにパーティでの演奏なんて誰も聞いてないでしょ。プロに任せようよ。」
ヒイロが穏やかに答える。話が進まなさそうなので私が言うことにした。
「で、具体的に何するの?」
「僕は生徒会長として挨拶する。みんなは参加者としてパーティに問題がないか見て回るってことでどうだろう。」
一聞提案のようだが全く提案じゃない。すでにヒイロの中では決まっているのだろう。
「私はパス。卒業パーティって王城でやるんでしょう? 制服で出席するのは流石に無理だろうし、他に服持ってないから。」
私の言葉に三人の男たちは困った顔をした。男が女に服を送るのは特別なことだ。少なくとも口説く気もない相手に対してすることではない。
「・・・じゃあ仕方ないね。他の人たちは参加するってことでいい?」
ヒイロはローズだけを見て言った。
「私は・・・どうしよう。別に行きたくなんだけど。」
意外だった。どう考えてもゲームイベントなのに。主役が参加しないとはこれいかに。
ヒイロとパプルが一生懸命ローズを説得するが、ローズはなかなか首を縦に振らなかった。ヒイロが諦めたように話題を進めた。
「じゃあ取り合えず次に・・・新入生歓迎会だけど、こちらもみんなで参加者として参加しようかと思ってたんだけど、どうかな。」
ヒイロが困った顔のまま私に言った。
「こっちは学内だよね。制服で参加していいなら行くけど。」
ヒイロはますます困った顔になった。
「学内だけどパーティだからね、学園関係者の貴族もくるし・・・制服はどうかと思うな。」
「・・・私は去年制服で行ったけどね。」
ローズがポツリと言う。
「すごく浮いてたよ。自覚あったでしょ?」
それまで黙っていたブルウが言った。私はパーティが始まる前に帰ったのでわからないが、かなり目立っていただろうことは想像に難くない。
「でも学校行事でしょう? ドレスを持っていないと参加できないなんておかしいと思う。」
ローズの声に全員が黙った。
「卒業パーティだって、ドレスを持ってない子はどうなるの? せっかく頑張って卒業するのに、誰も祝ってくれないの?」
「卒業が確定した子はすぐにパトロンがつくから大丈夫だと思うよ。みんな出席できるさ。」
パプルがあやす様に言う。ローズは少し考えてから言った。
「でも、新入生歓迎会は違うよね。実際私の制服姿を見て笑う人はいても、かばってくれる人はいなかった。貴族と違って試験まで受けて入学したのに。」
ローズは確か目立って貴族の気を惹こうとして制服で出席してたんじゃなかったっけ? 私が困惑しているとヒイロが真面目な顔で言った。
「・・・つまりローズは制服だけじゃなく、ドレスやタキシードも学園から支給するべきだといってるんだね?」
「違う」
ローズはバッサリと否定した。
「折角入学したんだから、入学した時ぐらいおめでとうって言われたいし言いたい。みんなここに来るために色んなものを背負ってきてる。殆どの人が実家から遠いここで頑張ることを決めてきたんだから、せめて最初ぐらいおめでとうって言ってあげたい。それに早い人だと最初の試験でいなくなるでしょう?・・・でもここに入学したことは悪いことじゃなかたって思って欲しい。頑張ったんだって、胸を張って欲しい。」
ローズはヒイロを真っすぐ見て言った。
「変えられないかな? 制服のままでも参加できるように。」
短い沈黙が落ちた。最初に口を開いたのはブルウだった。
「変えられるか変えられないかで言ったら、できるよね。ドレスコードを変えればいいだけだもん。」
「でも他の参加者が・・・」
ヒイロが渋る。
「二次会制にしてみるとかは? 時間が来たらドレスコードなしになるとか。」
助け舟を出そうと言ってみたが、なにか違う気もする。
「別室を作るってのもいいかもね。椅子を多めにおいて休憩室みたいな形にしておけば角が立たないかも。」
「でもそれだと貴族用の歓迎会と平民用の歓迎会の二つに別れちゃわない?」
パプルの意見にローズが反対した。
「・・・あの、私出席してないからわからないんだけど、去年はどんな感じだったの?」
「なんかいきなり音楽が鳴り始めて、みんなが踊りだした。」
ローズの短い説明にヒイロが苦笑する。
「ちゃんと学園長の挨拶の後に始まったよ・・・」
「食事も思ったより出ないし、知らない人だらけだから頑張って話しかけたのにみんなすぐにどっか行くし、つまんなかったな。知り合い同士で喋ってるだけで仲間外れみたいで。」
ローズはその時のことを思い出したのか不機嫌な顔になった。
「・・・つまり、貴族にとってはいつものパーティで、平民には居場所がない感じなのね?」
ローズはしかめっ面で頷き、男子三人はうっすらと目を反らした。
「じゃあ別室でもいいんじゃないかな。学園長の挨拶だけ聞いて、残りたい人はその場に残ればいいし、平民同士で交流を深めたい人は別室に移るって感じで。よく考えたら貴族と平民って三年通っても特に喋ることないよね? 普通は。」
ローズは何かを考えているようだが、男子はみなうんうんと頷いた。ローズはモテるからたぶん貴族に話しかけられることもあるんだろう。
ヒイロに今の話をまとめてくれと言われ、頭を抱えながらなんとか捻りだした。わざわざ別室を設けてまで平民を出席させる意義・・・交流を深めるため? いや、試験の合格者を労うため? 功績を称えるため? 学園生としての自覚を促すため? それだ!
なんとか大人語でまとめた文章を更に清書するともうお昼になっていた。清書した紙をヒイロは満足そうに見つめて鞄にしまった。
「春休み中に結果を伝えるから待ってて欲しい。・・・二人とも卒業パーティは出ないってことでいいのかい?」
私たちは顔を見合わせた後頷いた。ヒイロは諦めたように笑った。




