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【完結済】生まれ変わったのに始まりません!  作者: 紫藤しと
第三章

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81.奈津子の話⑲

 二月の頭、学園から帰ると入口の所で三年の先輩にばったりと会った。先輩は私の顔を見ると微笑んだので、私はビックリして鞄を落としてしまった。この人笑えたのか!


「・・・そこまでビックリしなくてもいいと思うんだけど。」


 先輩が苦笑する。いやいやこの一年間私を睨み続けていたのを忘れたんだろうか。


「ちょっと・・・衝撃的だったので。」


 そう言うと先輩は少し笑って私をお茶に誘った。断るのも怖かったので私は鞄を持ったまま先輩の後ろについていった。


 食事室で先輩は鼻歌を歌いながらお茶の準備をしている。よく見ると小柄な人だった。私がなんとなく抱いていた怖い先輩のイメージが少し崩れた。


「ご機嫌ですね。」


 私がそう言うと先輩は振り返って笑った。黒髪のおかっぱが揺れる。顔にはそばかすがあって、なんだか純朴そうな可愛らしい顔だった。


「卒業が決まったの。」


 先輩はそう言うと茶器を並べて私の正面に座った。


「おめでとうございます。」


「ありがと。私はずっと中ぐらいの成績だったからずっと怖くて・・・でも卒業が決まって、大きな商店の内定も貰えたの。これでやっと家族で暮らせる。」


 先輩は少し涙ぐんでいた。なるほどどうりで情緒がおかしいわけだ。嬉しすぎて誰かと話したいのだろう。


「ご家族をこちらに呼ぶんですか?」


「そうするつもり。うち父が早くに亡くなってずっと貧乏だったの。だから私が家族を支えるんだって思ってたけど、私は器量もよくないし、力もないし・・・勉強しかないってそれだけを必死でやってきたんだ。」


 そう言うと先輩は私を見た。


「あなたは天才なんでしょ?」


「はい?」


「入試も一位、前期も一位だって聞いたよ。おまけに生徒会まで入って。余裕だよね、いいよね天才は。」


 急な方向転換に面食らう。私今怒られてる?


「天才ではないと思いますが・・・」


 私の言葉を先輩は鼻で笑った。


「余裕ぶっちゃって。いいよね、遊んでても勉強できる人は。」


 早く自室に帰りたいなー。なんでお茶なんて一緒に飲んじゃってるんだろう。現実逃避していると先輩はぽつりと呟いた。


「・・・うらやましいよ。」


 そう言って下を向いた。情緒がジェットコースター過ぎてついていけない。


「もう卒業するんだから別にいいんじゃないですか。」


 投げやりに言うと先輩は少し顔を上げた。


「そうだね・・・やっと、解放される。」


 そう言って寂しげに笑う先輩を見て、思わず聞いてしまった。


「辛かったですか? 三年間。」


 先輩の目にみるみる涙が溜まって零れた。


「辛かった・・・ずっと・・・つらかった・・・」


 完全に泣き出した先輩の隣に座り抱き寄せて背中を摩った。先輩は何度もつらかったと泣きながらこぼした。


 先輩が言うには入試だけはたまたま高得点だったが、その後は至って平均的な成績だった為、いつ退学になるかずっと冷や冷やしていたという。


「平均なら大丈夫じゃないですか?」


「ダメなんだよ・・・なにか一芸に秀でてないとダメなの。私はなにやってもパッとしなかったから。顔がいいとか魔法を使えるとか、とにかく何か目立つものがないと、ダメなんだ。」


 初めて聞く話に驚くと同時に少し納得する。あの学園ならさもありなんだ。顔もアリとは思わなかったけど・・・顔か・・・顔もなのか・・・


「寮のもう一人の先輩は卒業できるんですか?」


「マーサ? あの子は無理に決まってるじゃない。二年ぐらいほぼ授業受けてないし。」


「よく退学にならなかったですね。」


「彼氏が貴族だもん。あの子はもう貴族のおまけとして在学してるだけだよ。」


 なかなか手厳しい。


「あの子はたぶん顔入学だから。成績は最初から悪かったし。・・・でも貴族の遊び相手としては良かったんでしょ。田舎出身だから擦れてなくてなくて、でも抜群に可愛くて。」


 先輩は馬鹿にしたように笑った。とりあえず気性が激しい人だということはわかった。


 その後先輩は「ちょっと話したらスッキリした。」と言ってさっさと自室へ戻ってしまった。


 こちらはどんよりとした気分のまま冷めきったお茶を飲む。先輩は卒業するには一芸がいると言っていたが、結局卒業できたんだから信憑性は疑わしい。でも一芸があれば退学になりにくいのは確かだろう。同級生のみんなにそれとなく伝えておこう。


「・・・あの先輩名前なんだっけ。」


 四月に一度聞いたが思い出せない。まあいいかと思いながら私も立ち上がった。あんまり友達になりたくないタイプだし。


 その後先輩とは何度か寮の中ですれ違ったが、浮かれているのか一方的に話して去っていくばかりだった。結局私は最後まで先輩の名前を思い出すことはなかった。

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