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【完結済】生まれ変わったのに始まりません!  作者: 紫藤しと
第三章

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78.奈津子の話⑯

 寮からほとんどでないままクリスマス休暇は終わった。図書館から借りてきた法律関係の本を読み漁ってわかったのは、この国では重婚が必要かもしれないということだった。

 教会が婚姻を認めてしまえば、配偶者が亡くなった時に遺産を請求できる。これは平民にはほぼ関係ない話だが貴族の第二夫人などは極めて大事なことだ。逆に言うと結婚は同時に何重でもできるので、結婚してくれない男は早々に見切りをつけることができる。そして法的には禁止されていないが、短期間に何度も同じ人物が結婚しているとなると世間の笑い者になるのでなかなか良い抑止力でもある。


 法律は奥が深いと思いながら日本でいう元旦から学園に向かい、また一年が始まった。約二週間ぶりにあったローズは、クリスマスイブのデートに着て行った制服用のコートを馬車で脱がされたことに怒っていた。


「そりゃドレスにはまったく合ってないコートだったけどさ、あのドレス寒いんだもん。真冬だよ!? 確かに馬車降りてから数mしか外歩いてないけど寒いって! 自分はコート着てるくせになんなのあれ!」


「じゃ、楽しくなかったの?」


「・・・そうでも、なかったけど。」


 ローズの頬が緩んだ。「個室とってくれてね、そこは暖炉があったから暖かかったし。二階の個室だったんだけど、食事終わって下に降りたら演奏会してて・・・一緒に踊ったよ。」


 さっきまでと打って変わって幸せそうに微笑んだ。情緒の忙しい子だ。


「ローズ踊れるんだ?」


「ワルツぐらいならね。うちの店にもたまに流しの演奏家くるし。」


「・・・良かったね?」


「でも、今日コート着たら思い出して腹立ってきた。私が持ってる一番上等な上着が制服のコートなんだもん。仕方なくない? そこ気にするなら上着もプレゼントしてくれたらいいのに。」


「それはちょっと図々しいんじゃない?」


「そうかなあ。本音言うとドレスも新しいのが欲しかったんだけど。」 


 すごいこと言うなぁと思って言葉が出なかったが、先生が教室に入ってきたので慌てて話を止めた。周りに貴族が座っていないのは確認済だ。


 先生が二月半ばにある後期試験について話し始めたので教室の空気がピリッと張り詰めた。平民は年に二回ある試験の成績が悪いとすぐに退学だ。実際に前期の試験ですでに数人が消えた。


「試験は少し先ですが、先生たちは一月末にある三年生の卒業試験に集中するため、あまり一、二年生に時間が取れません。もっとも去年真面目に授業を受けていれば問題ないと思いますので頑張ってください。」


 初めて聞く情報にどよめきが走る。ローズが小声で言った。


「どういうこと?」


「たぶん授業中以外の質問禁止ってことかなあ。」


「この先生の授業わかりにくいのに?」


 ローズの言葉は運悪く先生本人にも聞こえてしまったようで、先生がこちらを睨みながら言った。


「私としては理解できない方には理解して頂かなくても結構です。では授業を始めます。」


 そう言って始まった授業は酷いものだった。まだ説明していない単語が次々出てきて何を言っているのかさっぱりわからない。何人かの生徒が振り返ってこちらに恨みがましい視線を向けてきた。この教師にとっては平民の退学なんてどうでもいいだろうが、こっちは人生がかかっているのだ。


「先生」


 教室の後ろの方からよく通る声が聞こえて全員が後ろを振り返った。ブルウだった。なぜかキラキラしている金髪を揺らして立ち上がるといい声でこう言った。


「先生が説明されている内容は二年生のものでは? 私たちはまだ一年生です。指導要領に則った授業をお願い致します。」


 ブルウのきらきらオーラに気圧されたのか、先生はわざとらしく咳をした。


「ああそうでしたかね。失礼、忙しさのあまり勘違いしたようです。」


 その後授業は少し説明が増えた。相変わらずわかりにくいが、この先生はいつもなので仕方ない。


 授業が終わると私たちは急いでブルウのもとに駆け寄った。


「ブルウってこの授業取ってたの?」


 ローズの言葉にブルウは頷いた。


「一応ね。でもつまんないからほとんど出てないけど。」


 そう言って一冊の本を取り出して何故か私に渡してきた。


「これ、あの先生が昔書いた本。授業聞くよりこの本読んだ方がわかりやすいよ。ナツコが読んでみんなに教えてあげたらいい。」


「私!?」


 本をパラパラめくると、確かにこの癖の強い字体は前の黒板に書いてある字体と同じだ。


「昔はちゃんと教える気があったみたいだよ。今はそんな気も無くしてあんなイジメみたいな授業してるけど。」


 ブルウはそう言って立ち上がり短い挨拶をして教室を出て行った。すぐに遠巻きにしていた平民の生徒たちが近寄ってくる。


「それ、本当にわかるの? 俺にも読ませてよ!」


 すぐにでも本を読みたそうな男子生徒を躱し私はページを捲った。ローズが間に立って時間を稼いでくれる。


「・・・確かにこれちゃんと読んだらわかるかもしれない。来週の放課後みんなに説明するから時間をくれないかな。」


「お前が授業するってこと?」


 男子生徒の言葉に少し迷ったが頷いた。


「やる。来週の放課後まで待って。」


 前期の成績トップは私だ。そう思いながら周りを見渡すと不承不承と言った感じで生徒が散っていった。ローズはナツコかっこいいと言ってくれた。


 ローズに抱きつかれながら、ブルウに礼も言ってないことに気が付き内心頭を抱えた。どうして私は、いつもこう・・・


 その後ブルウの姿を探したがその日はもう見つけることができなかった。ひょっとしたら来るかもしれないと思い、生徒会室で借りた本を読んだ。


 初歩の初歩から応用まで後半につれてどんどん内容が難しくなっていく。これはおそらく三年間分の授業内容だ。


「ひょっとしてブルウってこの本を渡すためだけに学校にきてたのかなあ。」


 結局生徒会室には誰もこず、諦めて帰る道すがらローズが言った。


「っぽいよねー」


 ローズも礼を言っていないことに気づくとしょんぼりしていた。


「ひょっとしてブルウって良い奴なのかなあ。」


 ローズが首を傾げながら言った。


「燃えるような恋がしたいとか訳わかんないこと言うからこれはナイって思ってたんだけど・・・意外とありかもねー。」


 その言葉に頭を殴られたような気持ちになった。


「・・・ナツコどうしたの?」


 ローズの言葉に何でもないと返事し、ふらふら歩いているといつの間にか寮の部屋だった。鞄を置いて床に座り込む。


 そうかー、あれ誰にでも言うのか。そりゃローズはヒロインだもんね、むしろ私に言った方がおかしいよねあんなゲームっぽいセリフ。そうだよ、ここゲームの世界だし。


 ベッドに頭をうずめた。


「ここって本当にゲームの世界なのかな。」


 私がゲームだと思ってるだけでただの異世界なのかもしれない。どっちにしろただのモブにとってはただの現実でしかないし。チートもないし、美人でもないし。


 もう頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えたくなくて、ただ強く目を瞑った。

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