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【完結済】生まれ変わったのに始まりません!  作者: 紫藤しと
第三章

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77.奈津子の話⑮

十二月半ばから一月まではクリスマス休暇だ。ちなみにこの世界にキリスト教はない。理由はないが伝統的に12月25日は家族で過ごす日とされている。


「ナツコはクリスマスどうするの?」


「別にどうも。家にいるよ寒いし。」


「図書館も休みなんだっけ?」


「休みだね。ローズは?」


 年内最後の授業の後、私とローズは教室に座ったままぐだぐだと喋っていた。他の人はとっくに帰ってしまっている。


「私も普通に店の手伝い。周りは閉めるお店も多いからありがたいことに大繁盛なんだよねぇ・・・」


 ローズが憂鬱そうに言った。


「でも24日はパプルに誘われてるから出かけようと思ってる。」


「先月のコンサートといい順調だねぇ。もうパプルに決めたの?」


「どうだろ。最近王都で当日は家族と過ごして、クリスマス前日は大事な人と過ごすってのが流行ってるみたい。流行りに乗りたかっただけじゃないかなあ。」


「大事な人って思われてるならいいじゃない。」


「うーんあんまりそんな感じしない。」


 ローズは足をブラブラさせて不服そうだ。


「でも先月一緒に出掛けたのは楽しかったんでしょう?」


 先月パプルとローズは演奏会の参考にとプロのコンサートに二人で出かけていた。ドレス一式をプレゼントされるというお姫様待遇だったそうだ。


「楽しかったし完璧なエスコートだったけど、どうにも平民にも優しい俺感が鼻につく。」


 そこ突っ込んじゃダメだろと思ったが黙っておく。


「とりあえずキープ?」


「そうだねー、とりあえず行ったら美味しいもの食べられそうだし。」


 行きたくない飲み会前のOLみたいなセリフだな。


「・・・年が明けたら後期試験やってまた休みかぁ。一年って早いね。」


「生徒会は卒業パーティの手伝いがあるよ。」


「え、そうなの? 何するの?」


「知らないけど・・・あと新入生歓迎会もなんかやるってヒイロが言ってた。」


 意外と春は忙しそうだ。面倒くさいな。


「私たち来年も生徒会役員なのかな。」


「まだ二年だからそうなんじゃない?」


「まあそっかぁ・・・私たちこの半年頑張ったよねぇ。貴族に囲まれた慣れない生活をさあ。」 


「それだ!」


 ローズが手を打って立ち上がった。


「わかった! 私たちには打ち上げが足りないんだよ!」


「打ち上げ?」


「そう! こんなにも頑張った私たちに対する労い!」


 私も立ち上がった。


「確かに! だからこんなにダルいんだ。」


「それだよ!」


 ひとしきり二人で盛り上がった後、王都に出かけることにした。学園内のカフェテリアだと話せないことが話したい。思い切り愚痴りたい。


 学園を出て役所の前を通り過ぎると、遠くで何やら数人の男が騒いでいるのが見えた。


「なんか騒いでるから迂回しよっか。」


 私はそう言ったが、ローズは大丈夫だと進路を変えなかった。


「あそこドーナー家の屋敷だもん。警備隊むちゃくちゃ強いとこだよ。あと超金持ち。」


「それ関係ある?」


「あるよ。金持ちの友達は金持ちだから。」


 ちょっとよくわからない理屈だが、ローズが自信満々なのでそのまま私も進むことにした。歩きながら少し前にも揉めていた屋敷だなあと思い出す。なんだか親子喧嘩みたいな言い争いだった気がするが、金持ちは門前で喧嘩しないだろう。第三者が押しかけているんだろうか。


 近づくにつれ声がはっきりと聞こえてきた。どうみても平民のみすぼらしい男が息子をだせと騒いでいる。それに対応しているのは貴族っぽい男性だ。髪はグレーだがモブっぽくない迫力がある。


「貴族が平民の子どもを攫ったって感じ?」


 ローズが首を傾げて言った。


「わざわざ攫う必要ないよねぇ・・・なんなら大金積めば喜んで子どもを差し出しそうな見た目だし。ここの人金持ちなんでしょ?」


「うん。しかも現当主は王都でも有名なイケメンだったらしいよ。うちの親世代じゃ有名な話。金持ちでイケメンとか子ども作り放題だよね。」


 好き勝手話しているといつの間にか争っている場所まで15m程の距離にきていた。さすがに真横を通るわけにもいかないと思い私は立ち止まった。


「ローズそろそろ道渡ろう・・・」


 私がいい終わらない内に前から待てっという怒号が響いた。驚いて前を見ると騒いでいた平民の男が真っすぐローズを見ながら走ってくる。私はローズの腕を引っ張ろうとしたがローズはそれをするりと躱して私を庇う様に一歩前に出た。そして男に向かって片手を突き出すと、男は5mほど宙に浮いた。


 男は空中でしばらくもがいていたが、ローズがやっているらしいことがわかると騒ぎ始めた。


「下せ! なにやってんだコラ。ぶっ殺すぞ!」


 ローズは何も言わずに手を上に上げたままだ。ローズが魔法を使っているのを初めて見た。まさかこんな力があるとは。あっけに取られて私はなにも言えなかった。


「巻き込んでしまいすみませんお嬢さん方。後はこちらで処理しますので下して頂いて大丈夫ですよ。」


 グレーの髪の人が走ってきて言った。近くで見ると予想以上に整った顔の人だった。


「大丈夫なんですか? 今下したら逃げられちゃいますよ。」


「・・・事情がありまして、逃げてくれた方がありがたいんです。」


 ローズはそれを聞くと男を2m位のところからぱっと離した。男は腰を打ったようでしばらく呻きながらこちらを睨んでいたが、横のグレーの人を見て諦めたように小走りで逃げて行った。


 グレーの人はそれを見届けるとこちらを振り返り丁寧に腰を折った。


「私はハジム・ドーナーと申します。お嬢さん方は王立学園の生徒ですよね。怖い思いをさせてしまい申し訳ございません。」  


 ずいぶんと腰の低い貴族だ。少々居心地が悪くなってローズを見ると、ローズの頬が紅潮している。


「構いませんわ。私は魔力入学している身ですから、お役に立てて光栄です。」


 笑顔がいつのも三割増しで美少女だ。


「なるほど魔力入学ですか。先程は風魔法ですよね。素晴らしい腕前でした。よければお詫びを兼ねてうちでお茶でも飲んでいかれませんか?」


 微笑みながら見つあう二人・・・あれ、モブは退散した方がいいのかな。


「ハジム!」


 グレーの人の後ろから黒髪の男が小走りで近づいてきた。こちらは可愛い系の男前だ。半径2m内の顔面偏差値が高すぎてモブは居た堪れない。


「よろしければ私がご案内しますので、是非おいで下さい。」


 黒髪の男は息を弾ませながら言った。では私だけ帰ろうかと思いローズを見ると、ローズも私を見ていた。


「いえ、私たちは用事がありますので。大したことはしていませんからお気になさらず。」


 ローズは笑顔でそう言うと私の腕を引っ張って歩き出した。道を反対側へ渡ってから私は小声で聞いた。


「え、なに? ローズだけでも行けば良かったじゃない。ドーナーってことは当主の身内でしょ? イケメンだし玉の輿だよ?」


「だってあの二人できてるもん。」


 思わず後ろを振り返ると二人はまだ屋敷の前からこちらを見ていた。私は愛想笑いで会釈して慌てて前を向いた。


「あの二人ってあの二人?」


「そう。つまんないの。なんでイケメン同士てくっつくかねー。」


 ローズはぶすっとした顔をしている、さっきの美少女どこいった。


「あんな一瞬でなんでそんなことわかんの?」


 ローズは深いため息をついて言った。


「むしろなんでナツコはわかんないのよ。さっきの人は貴族だし、魔法は使えないかもしれないけど相当強いよ。本気出せばあんな男ぐらい一瞬で倒せるタイプ。たぶん刃物隠し持ってたしね。後から来た人は貧乏貴族の次男とかのちょっと身分が低い人。お互いすごく愛し合ってる。」


「・・・いやいやいや、占いだってもうちょっと時間かけるよ。どういうこと?」


「女のカンってやつよ。まあ人の強さは模擬戦闘とかやってないとわかんないかもしれないけど。」


 正直あまり納得できなかったが、ローズにその気がないならまあいいかと思い頷いた。


「・・・まあ二人とも30歳ぐらいだったし、ちょっと年上過ぎるかもね。」


「あんだけイケメンだったら年上でも全然いいんだけど・・・幸せそうな二人を邪魔するのはねぇ。」


 ローズの言葉に生徒会の三人に婚約者がいることを思い出し、暗澹たる気持ちになった。やっぱりこの子には幸せな恋をして欲しい。


 その後私たちは安い喫茶店に入り甘いものを食べ愚痴を言い合った。愚痴のはずなのにいつの間にか大笑いしていた。今年最後のいい打ち上げだった。

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