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【完結済】生まれ変わったのに始まりません!  作者: 紫藤しと
第三章

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76.奈津子の話⑭

あまりの気まずさにしばらく生徒会は避けようとしていたのに、次の日ローズに強引に生徒会室へ連れていかれた。演奏会の振り返りをするらしい。先に来ていたヒイロとパプルはいつも通りの笑顔で迎えてくれたので私は小さくなりながら席についた。


「昨日はすみませんでした・・・」


「もう具合はいいの?」


「顔赤かったもんね、大丈夫?」


 パプルとヒイロはあの暴言を私の体調が悪かったせいにしてくれるらしい。本当に申し訳ない。


 一番最後に部屋に入ってきたブルウは奇麗な制服を着ていた。こちらはあまりの申し訳なさに顔が見られなかった。


「揃ったから始めようか。」


 ヒイロが全体を見回して続けた。


「今回は生徒会主催の演奏会ということで費用諸々はこちらで賄ったけど、好評だったので今後は学園行事にしようという話になった。それに伴い正式な報告書の提出を行います。まず反省点を幾つかあげようと思うんだけど・・・ちょっと会場が小さかったかな。」


「入場を制限する?」ブルウが言った。


「あそこまで人がくるとは思わなかったね。外で会場を借りてチケット制にしてもいいかもね。」とパプルが言った。


「それは学園行事から外れるんじゃないの・・・」


 思わず口を出してしまい議論はあちことへ飛んだ。二部制にするとか、学園生のみ入場可にするとか。


「でも子どもが舞台に立ってるのを見たい親御さんもいるんじゃない?」


 ヒイロがそう言って私を見た。昨日の会話は忘れてほしい。


「確かにね・・・じゃあオーディションで出演者の数を減らすっていうのはどう? そうしたら見に来る人も減るんじゃない?」


 ローズの提案にしばし考える。


「それだと学外からの入場希望者が増えるんじゃない?」


「いっても学園生であってプロじゃないし、身内しか見に来ないと思うよ。今回は最初だから物珍しさもあったと思うな。出演者一人につき一枚か二枚誰でも招待できるチケットを配って、チケットがない人は先着順で入場できるっていうのはどう?」


 ブルウの意見にみんなが頷いた。


「それが良さそうだね。じゃあ会場は変えずにチケット制を採用っと・・・入場はこのまま無料で。」


 ヒイロの意見を紙にまとめる。初めて本来の書記らしい仕事をしている気がする。


「学園側がお金出してくれるの?」


 ローズの質問にヒイロが頷いた。


「今回の費用を伝えたらこれぐらいなら問題ないって言われたよ。」


 ヒイロは話が早いなあと思いながらまとめを書き終えふと思いついた。


「ところでチケットってどうやって作るの? まさか私が全部手書きするとか言わないよね?」


「さすがにそんなことは言わないよ。業者に頼むよ。普通の演奏会みたいにハンコで作るんじゃないかな。俺も詳しくは知らないけど。」


 パプルが苦笑しながら言った。まだこの世界にはコピー機がないので、大量に印刷したいときは木に文字を掘って、そこにインクをつけて刷る。活版印刷の技術はまだ聞いたことがない。 


「作ってもいいかもね・・・」


 独り言のつもりで呟いたが、パプルに聞き返された。


「何を?」


「今の印刷って木の板に全部の文章を掘ってるでしょ? そうじゃなくて予めすべての文字をバラバラに掘っておいて、作りたい文章に並べてから印刷するの。そうしたら今より楽に印刷ができるでしょ。」


「・・・同じ文字が繰り返しでてきたらどうするの?」


 ローズが首を傾げた。


「だから同じ文字を五個ぐらい作る必要があるね。」


 日本の活版印刷はひらがな、カタカナ、漢字と大量の文字を用意していたらしいし、それに比べたらこの世界の文字はアルファベット並みに少ないので大丈夫だろう。


 一人で頷いているとヒイロが私を見て言った。


「その案、僕の方で作ってみてもいいかな。すごく面白そうだし、木よりも金属で作った方がいいような気がする。僕の領地は金属加工も盛んだから作れると思う。」


 私はちょっと迷ったがすぐに頷いた。一瞬自分で木を彫ろうかとも考えたが、数を考えると気が遠くなりそうだったからだ。


「ありがとう。ちょっと父にも相談してみるよ。・・・話を戻そうか。他に改善案はなかったかな?」


 ヒイロの声にパプルが手を挙げた。


「終わった後、美術をとってる奴にこんなに人が集まるなら絵も飾りたかったって言われたよ。検討してみてもいいんじゃない? 名前も芸術祭に変えてさ。」


「なるほどね・・・ホールのロビーに飾るってこと?」


「そうそう、搬入と飾りつけは自分たちでやってもらってさ。一週間ぐらい飾っておいたら誰でも見られるんじゃないの?」


 ヒイロとパプルの会話を聞きそれって文化祭・・・と思ってから気が付いた。これも多分ゲームイベントなんだろうな。私は今青春イベントの最中なのか。全く実感ないけど。


 話は淡々と進み、私は紙に概要をまとめていった。いつ間にかパプルがお茶を淹れてくれていた。会の目的、実際のプログラム、出演者の感想と客の反応、改善点・・・


「費用については省いていいんだよね?」


「既に提出済だから大丈夫だよ。」


 ブルウとバッチリ目が合ってしまったので慌てて反らした。そう言えばまだ謝ってなかった。でも今謝ると変だしなあ。悩みながら雑に書き上げて紙をヒイロに渡した。


「省略したところもあるけど大体こんな感じでまとめるつもり。これで良ければ明日清書して持ってくるね。」


 私が書いた紙をみんなが回し読みしている間お茶を飲んで一息つく。読み終わったみんなは口々に褒めてくれた。


「ナツコって天才!」


「すごいね・・・よく短時間でこれだけまとめたね。」


 賞賛の言葉が耳に心地よい。あって良かった社会人経験。


 これで提出できるとのことだったので全員帰宅することになった。帰り支度をしているブルウを横目で眺める。さすがにあれを謝らないのは人としてダメだ。


 全員で廊下を歩きながら、私はさりげなくブルウの横に並んだ。


「あの、昨日は、すみませんでした・・・」


「ん? 大丈夫だよ?」


 ブルウは少し笑って言うと、すぐにパプルの横に行って何かを話し始めた。


 はあ? それだけ? こんなに意を決して言ったのに!?


 思わず立ち尽くしてしまうとローズが振り返った。


「どうしたの?」


「あ、いや、別に・・・」


 さすがにローズには話せない。もやもやする気持ちを抑えながら途中まで一緒に歩いた。送るという社交辞令を断り一人で帰路につく。だんだん気がついたが、学園前の道路は役所や貴族の屋敷が並んでいる通りなので、一定の間隔で門番が立っている。タタン様のお屋敷もこの通りにあるので、危険な目にあう可能性はかなり低いのだ。


 寒くて薄暗い道を一人でとぼとぼと歩く。ブルウの態度は完全にもう関わりたくないという感じだった。生徒会メンバーとしては今まで通りだけれど、もう個人的には話したくないのかもしれない。まあそれだけのことをしたんだけれど・・・


 大きな白いため息がこぼれた。大きなお屋敷の前で複数人が揉めている声が聞こえたけれど、目をやる元気もなかった。

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