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【完結済】生まれ変わったのに始まりません!  作者: 紫藤しと
第三章

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73.奈津子の話⑪

十一月末、休みの日の午後に行われた演奏会は、意外なほどに盛況なものとなった。


 王立学園の一番大きい200人入るというホールを借りていたが、開演前からすでに空席がほとんどなかった。半分以上が制服を着た生徒だが、貴族らしい人や平民っぽい大人もチラホラいた。学園の外に向けて宣伝したわけではないので、おそらく出演者の家族だろう。


 席がないのでホールの一番後ろで壁にもたれて待っていると、照明が落ちた舞台に制服姿の生徒会四人が現れた。ボーカルのローズとピアノのヒイロにだけスポットライトが当たり、ローズがゆっくりと歌いだした。短いフレーズを二人で奏でた後、曲が転調し舞台が明るくなる。


 四人の演奏はなかなかのものだった。特にローズはマイクもないのに会場中にきれいなソプラノを響き渡らせていた。やっぱりうちのローズが一番かわいいな!


 ニコニコしながら眺めているとあっと言う間に一曲が終わり四人はすぐに舞台袖へ引っ込んでしまった。そのあとはギターデュオ、バイオリンカルテッドと友達同士らしき演奏が続いた。みんなステージにでるような正装だったので冒頭の生徒会が制服を着て演奏したことが不思議に思えてきた。平民であるローズに合わせたのか? いやローズはドレス持ってるはずだけど。


 そんなことを考えているとあっという間に最終組となった。薄暗い舞台の上に演者が並んでいくがその数の多さに会場がざわざわする。プログラムには演奏する曲名と有志による合唱としか書いていなかったが、どうやら三十人以上が登壇したようだ。


 舞台が明るくなるとピアノの伴奏に合わせて合唱が始まった。男女混声合唱だ。大勢の歌声というのはなぜこんなにも泣きたくなるのだろう。歳のせいかな。今の体は若い筈だけど。


 演奏が終わるとみんな立ち上がって拍手をした。舞台の上で泣いている子がいた。客席にも涙ぐんでいる人がいた、おそらく子どもがあの中にいるのだろう。つられて私も泣きそうになりながら目一杯拍手をした。拍手の音はなかなか鳴りやまなかった。演奏会は成功と言えるだろう。


 舞台裏にいくと未だ興奮冷めやらぬ人達から離れてローズは一人椅子に座っていた。ちなみに舞台照明や進行、客の誘導等はすべてプロの劇団から人を雇っているので私は全くやることがない。そのお金がどこから出てるかも知らない。


「お疲れ様! すごく良かったよ!」


 ローズに声をかけると彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう。今日は大成功だよね。」


「うん、問題なく終わったね。ところでローズはなんでドレスじゃなかったの? 他の人は結構ドレスの人多かったのに。」


 ローズが苦笑した。


「それここ一か月ぐらい大揉めした話なんだけど・・・ナツコ聞いてないんだ。」


 ローズによると最後に出たグループは授業で合唱を選択している人達だそうだ。


「合唱ってさ、一人じゃできないし友達数人でするのも難しいでしょ? だから合唱がしたくて学園に来てるっていう人もいるぐらい人気の授業なの。芸術系じゃ珍しく平民もいるんだけど、今回の演奏会はそもそも平民が参加できるのかっていうのもまず揉めたのよ。」


 めんどくさい話だなあと思いながら頷いた。


「最終的にヒイロやパプルが反対してる貴族の人を説得する形で平民も参加することになったんだけど、今度はドレスをどうするんだってその人たちが。」


 ローズは思い出したのかうんざりした顔になった。


「舞台に上がるなら正装するのが当たり前だろうって。それって実質的に平民は出るなってことよね。もう面倒だから学園内の行事なんだしみんな制服でいいじゃないかってことになったの。そこら辺あんまり関わってない人たちは結局ドレスで出てたけどね・・・大変だったんだよ?」


 ローズが私を軽く睨む。


「ひょっとして割と最近まで誰が出演するか揉めてたの?」


「うん」


「だからか。パンフレット書いてて参加者名がないの違和感あったんだよね。でも良かったよ三十人以上の名前を何回も書くなんてしんど過ぎ。助かったわ。」


 パンフレットは学園へ提出する用、記録用、園内に張り出す用に十枚ほど書いた。かなり大変だったので私も十分に貢献したということにしておいて欲しい。


 ローズと話している間に少しずつ楽屋の人が減り始めた。さっきまで廊下に響いていた女子の甲高い歓声も聞こえない。どこか別の場所へ移動したのだろう。


「これからどうするの? 打ち上げでもするの?」


「今日は完全にヒイロ仕切りだからヒイロに聞かないとわかんないなあ。でも終わって安心したらおなか減っちゃった。」


 悪戯っぽくローズが微笑む。そこへちょうど通りかかったパプルが声をかけてきた。


「お腹空いたの? なんか食べに行く?」


「え、ヒイロとブルウは?」


「ヒイロは責任者だからまだ色々やってる。ブルウは婚約者が見に来てたらしくて送っていったよ。」


「・・・ヒイロ手伝わなきゃダメでしょ。」


 ローズは少し怒った顔で一人で歩きだした。ヒイロを探すのだろう。なんとなくその背を見送り、パプルを振り返った。パプルはきょとんとした顔をしている。


「え、何?」


「ブルウに婚約者がいるって初めて聞いた。」


「そう? 貴族ならおかしくないけど。」


「パプルは? ヒイロにもいるの?」


「・・・一応正式ではないけどそれっぽい子はいる。確かヒイロもそう。」


 パプルは明らかに困った顔をしている。それっぽい子って一体なんだ。


「ローズはそれ知ってるの?」


「・・・知らないんじゃないかな。」


 自分でも険しい顔になっているのがわかる。


「そう言うのって不誠実じゃない? 人の友達を愛人扱いしないでよ。」


「そんなつもりはないんだけど・・・」


 煮え切らない態度にぶん殴りたくなったので私はその場から退散することにした。近くにあったローズの鞄を持ち廊下に出ると、ヒイロとローズがこちらに歩いてくるところだった。


「ちょうど良かった。もう後は任せて大丈夫らしいから・・・」


 ヒイロが話している途中で私はローズの腕を取った。


「ありがとう。私たち忙しいから後はお願いします。」


 そう言うなりローズを引っ張って歩き出す。ローズは私とヒイロを交互に見ていたが、やがて諦めたように普通に歩き始めた。


「どうしたのよ一体。」


「あんな人達はほっといて二人で打ち上げしよう。奢るから!」

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