71.奈津子の話⑨
九月半ばから授業が始まり、放課後久しぶりにローズと会った。少しだけ日に焼けている。川遊びは楽しかったらしい。
「ブルウもありだなって思っちゃった。」
ニヤニヤしながらいうローズに校庭の隅で根掘り葉掘り聞いてみると、なんというか本当に逆ハーを楽しんでいることが伝わってきた。何よりだ。
「ヒイロが水着をプレゼントしてくれてね、パプルも近くのお店を予約してくれてて・・・すごい楽しかったよ。みんな意外といい体しててビックリしちゃった。私の水着姿をみてパプルが顔赤くしたのも意外だったし、ブルウは全然水に入らなくて何しに来たのって思ったけど、近くに咲いてた花を急に私の髪に挿してくれたの。ありだよね!」
他にもねと一通り話し終わったローズが急に物憂げな顔をして黙り込んだ。さっきまでベンチに座って足をブラブラさせ楽し気に話していたのに。
「・・・なーんか、あれだけお姫様扱いされると勘違いしちゃうよね。」
ポツリとこぼれたローズの言葉に仰天する。
「どうしたの、急に。」
「いや、今気が付いたんだけど、何であの人たちあんなに優しくしてくれるのかなって思って。変じゃない?」
「・・・ローズのことが好きなんじゃないの?」
「何で?」
何でと言われても・・・私は知らないけど。
「どこがいいの? 顔? 性格? 魔力?」
「いやいや知らんがな・・・」
私が知るわけない。
「なんかね、口説かれてるのはわかるの。でも好かれてる気がしないんだよね。なんなんだろ。」
ローズは急に考え込んでしまった。確かに私の見ている限りでも、誰も恋をしている様子はない。でもそれはローズも同じだ。思わず口から零れてしまった。
「・・・なんか生徒会の中で恋をしなさいって言われてるみたいね。」
ローズが真顔で私を見た。
「どういう意味?」
「いや、ちょっと思っただけ・・・」
そうちょっと思っただけだ。これはゲームかもしれないと。主要イベントは必ず起こることが決まっているが、誰と結ばれてエンディングを迎えるかは決まっていないいわゆる乙女ゲームというやつではないだろうかと。
私たちはしばらく黙ってそれぞれ考え事をしていたが、ローズが先に立ち上がった。
「今日は帰ろうかな、生徒会室行く気分じゃないや。」
私ももちろん行く気はなかったので一緒に帰ることにした。
並んで無言で歩きながら誰とも結ばれなかった場合の乙女ゲームについて考える。
ローズが卒業できないってことはないだろうから、普通に卒業してご両親のお店を手伝って、前に本人も言ってたみたいに近所の人と結婚して・・・ローズは絶対モテるだろうし押しに弱いから誰かに熱烈に迫られたら案外普通にいい夫婦になりそうな気がする。
「・・・それでいいじゃない。」
思わず声に出してしまい、ローズが怪訝な顔をした。
「何が?」
「別に玉の輿じゃなくても、ローズなら幸せになれるよ。無理して生徒会に絞る必要ないって! ちゃんと自分が幸せになりそうな人選びなよ!」
道端なのに声が大きいと気が付いて慌てて口を押えた。そんな私をみてローズは笑った。
「なにそれ、あんたも私のこと口説いてんの?」
人を馬鹿にしているような、でもどことなく嬉しそうなローズの顔を見ていたら私も笑ってしまった。
「うん、いざとなったら私が養ってあげるよ。」
「やだ惚れちゃう!」
私たちはゲラゲラ笑いながら一緒に道を歩いた。ゲームでもアニメでもなんでもいいけど、私はモブの友人として、彼女の幸せをアシストすると決めた。




