69.奈津子の話⑦
七月、前期の試験は無事トップを取れた。といってもこの学園は大きく学問系、芸術系、武闘系の三つの部門に別れており、私がトップをとれたのは学問系だけだ。だがこれを続ければ役所への就職は堅いだろう。
一方ヒイロとブルウはそもそもどの試験を受けなかったらしい。確かに私が受けた学問系の試験も貴族の出席者は少なかった。どうやら進路が決まっている貴族は上位の成績を平民に譲るという暗黙の了解があるそうだ。ヒイロもブルウも試験さえ受ければ上位に入りそうなだけに少々癪に障る気もするが、私の将来の安定のために甘んじて受け入れることにした。
ちなみに武闘系のトップはパプルがとった。ローズは二位だった。パプルは剣と魔法の試験を受けローズは魔法のみなので仕方ないとは思うが、ローズはしばらくの間悔しがっていた。どうやら魔法のみの対抗試合でも負けたらしい。これまで魔法で負けたことがなかったローズは初めて魔法制御を真面目に取り組むようになったと言っていた。空気を読まずに普通に試験を受けたパプルはそれなりに可愛いやつだと思う。
「ローズは夏休みどうするの?」
「家の手伝い。ナツコは?」
「寮で勉強。」
つまんないねーと二人で笑いあった。終業式なんてものは特になく、それぞれの先生ごとになんとなく授業が終了し、私たちは夏休みに入った。試験を受けない貴族は六月から休みに入っているので、本当にバラバラだ。
ヒイロとパプルは先週まで学校に来ていたが、そろそろ領地に向けて出発するそうだ。ブルウはちょっと前から夏休みに入っている。私とローズは暇だとか、家の手伝いをサボりたいだとかいう理由で朝から学園に来てみたが、さすがにもう校舎には誰もいなかった。
誰もいない校舎をローズと二人でブラブラと歩く。日陰はそれなりに涼しいが、すぐに暑くなるだろう。
「学園って夏の間も開いてるのかな?」
「ううん、明後日ぐらいから九月まで閉まるはず。外で勉強したければ横の役所の図書館に行けって言われた。」
「図書館かー、私は縁がないなあ。」
ローズが白い手足を伸ばして大きくのびをした。この子はどうして日に焼けないんだろう。というか私はなぜ殆ど外に出ていないのに焼けてるんだろう。
「・・・みんなで川に行くって言ってたのはどうなったの?」
「行くよー、九月の頭に。みんなそれぐらいには王都に戻ってるんだって。ナツコも行く気になった?」
「行かないよ。・・・ってかもし5人で行くってなったら馬車どういう風に乗るつもりなの?」
「じゃんけんとか?」
「それじゃつまんないよ。今なら誰と二人に乗りたいの?」
「ヒイロかパプルならどっちでもいい。あ、ナツコでもいいよ。ブルウと二人きりはヤダ。」
「へー、じゃあもうその二人のどっちかなんだね。生徒会以外はいいと思う子いなかったの?」
「今のとこいないなぁ・・・やっぱり平民を見下してくる奴多いしさ、かといってなんかやたら褒めてくる奴も気持ち悪いし。まともに相手してくれるのあの三人だけだよ。」
ローズは自嘲気味に笑ったが、その横顔さえも奇麗だ。
「そんな遜らなくてもいいのに。」
「へりくだるって言うか・・・まあ、私は玉の輿狙いだし。自分を好きになってくれそうな人を好きになるしかないじゃない?」
とても少女漫画のヒロインとは思えない発言だ。
「なんかそれって寂しいね。」
「そう? 三人もいるならいいじゃない。私は軍に入る気もないし、魔法だけで生計を立てられタイプじゃない。近所の子と結婚して時々家の定食屋を手伝ってーみたいな未来を変えるには貴族と結婚するのが一番なんだから。・・・ってか私はいいからナツコは? いい人いないの?」
矛先が急に私に向いた。
「いる訳ないじゃない。そもそも私なんか可愛くないし、好きになっても好かれる気がしないし。」
「ナツコは・・・一部のマニアから人気だと思うよ。」
なぜかローズは目を反らして言った。どういう意味だ。
「マニアはパス。・・・もう喉乾いたからなんか飲みに行こうよ! ここのカフェテリアは閉まってるし、私全然王都出歩いたことないから案内してよ!」
暑いと渋るローズを引っ張って、私は初めての王都歩きを楽しんだ。
ローズはしっかりしているようでどこか抜けている、そして優しい。私は前世の友人を思い出していた。あの子とも高校時代こんな風に一緒に街をブラブラして遊んだ。あまりにも早く逝ってしまった私の親友。彼女もこの世界に転生していればまた一緒に遊べるのに。




