66.奈津子の話④
週明けから授業が始まった。思ったより普通の授業で、貴族もそれなりに参加していて拍子抜けした。ぼんやりしていると普通の大学の授業のようだ。制服だけど。あと髪の色が日本よりも色々だけど。どうやら貴族の方が色んな髪色の人が多いらしい。
ローズはパーティで赤髪の人との接触に成功したようだ。
「成功っちゃ成功よ。顔と名前は憶えてもらったんだから。」
「・・・いきなりダンスに誘って断られたんでしょう?」
「いくら私が可愛くても、会場の隅でもじもじしてたら100年経っても誘われないじゃない。先手必勝よ。」
どんな肉食系ヒロインだ。これはドタバタラブコメなんだろうか。
「貴族も結構授業受けるみたいだから、成績優秀とかで目立った方がいいんじゃないの?」
「100年かかるわ・・・でも、馬鹿な女の子のフリは通用しなさそうなのがわかったから。しばらくは真面目にするわ。隙を見つけて打つ!」
暗殺か。
先生が来て授業が始まったので私たちは黙った。ローズは話し相手が欲しいのか、こちらが話しかければ何でも話してくれる。実はこの子の方が押しに弱いのかもしれない。
なにやら色々やっているらしいローズとは違って、私は淡々と日々を過ごしていた。朝起きて夕方まで勉強して家に帰る。帰っても掃除や洗濯、食事の用意をする必要がない。毎日シャワーを浴び、いい匂いのする寝具に包まれて眠る。泣きたくなるほど幸せだと思った。
そんな学園生活にも慣れ始めた四月の終わり、私は教師から生徒会へ入るよう打診を受けた。6月に形ばかりの選挙があるが、立候補する者などいないので毎年教師側が決めているらしい。私は喜んで承諾した。この学校の生徒会はいわばエリートだ。就職にも有利だろう。
一方ローズはアタックする相手を三人に絞っていた。赤髪の熱血ぽい人、紫髪のチャラそうなロン毛、金髪のふわふわした男の子の三人だ。正直予想通りだ。
「話しかけても、曲がり角でぶつかっても、スッと逃げられるんだけどどうしたらいい?」
ローズは不服そうに学園内のカフェテリアでため息をついている。ちなみにここでの食事は無料だ。
「どう見たってモテそうな人達だし・・・なんかイベントが起きなきゃ無理じゃない?」
イベントってなにと文句を言っているローズの横で私は空を見上げた。こんな風に放課後制服で駄弁っていると昔みたいだ。
「ローズは生徒会断ったんだよね?」
「まあね。私は恋に生きたいから。生徒会ってようするに雑用でしょ? ダルいし。」
「--そんなこと言わずに入ってよ。」
横から急に声をかけられて、私たち二人は飛び上がった。話していたのはテラス席なので他にも人はいたが、この人はさっきまでいなかった気がする。どっから沸いて出た。
「え、ヒイロ様、ど、どこから?」
ローズも混乱している。その隙に赤髪の人はスマートに着席の了解を求めローズの隣に座った。しかも後ろから紫と金髪も来て、同じテーブルに五人が座ることになった。突然のイベント発生。
「初めましてかな。ヒイロと言います。ナツコ。」
至近距離で見るイケメンは迫力が違う。私は黙って微笑んだ。続いて他の人も名乗ってくれた。紫はパプル、金髪はブルウと言うらしい。たぶん目がブルーだから。名前からしてアニメっぽい。
ただの女子高生の放課後が一気に華やかなアニメのイベントになった。ローズは目が泳いでいるが背筋を伸ばして美少女っぽい雰囲気を漂わしている。あれ、私だけ場違いな気がする。
「それでさっきの話なんだけど。」
ヒイロが切り出した。「ローズも生徒会に入って欲しいんだ。」
「私なんかが・・・えっと・・・なぜ・・・」
ローズは混乱している。
「僕やここにいるパプルとブルウも生徒会に立候補予定なんだけど、まだ候補者が一人足りないんだ。ローズは学園でも一二を争うほどの魔法実力者だって聞いてる。生徒会にピッタリだよ。」
ヒイロはローズの手を取って言った。
「それに恋なら生徒会でもできると思うし・・・ダメかな?」
性格わるっ! こいつ絶対性格悪い!!
自分の顔と声がいいことを熟知してやってる。100パーセント断られないのをわかっててやってる! 断れ!と念を込めてローズをみたが、ローズはすでに顔を赤らめて頷いていた。
あーあと思いながら視線を外すと、呆れた顔の金髪、もといブルウと目があった。良かった、普通の人いた。
こんな感じでまだ五月だというのに今年の生徒会メンバーはこの五人で決まった。後から先生に話を聞いたところ、ヒイロが立候補した時点で他の候補者が私以外全員辞退した為こんなことになったらしい。私が知らなかったのはヒロインの友達だからだろうか・・・逃げそびれたという気がしなくもないが、まあいいだろう。アニメだったら第一話が終わるところだな。




