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6.談話室

 さて、クマとの話し合いを一度で終わらすためには話を予めまとめないといけない。


 クマが私と話し合いたい理由は、もっている知識のすり合わせをしたいのだろう。それはわかる、そしてあわよくば自分が知らない知識を得られれば、このよくわからない状況に光明が見えるかもしれない。


 では、前世について。


 前世は二人とも日本の高校生だった。都会でも田舎でもない所の公立高校に通い、つつがなく卒業した・・・と思う。かなりあやふやだ、二人とも進学したような気がする。



・高校時代にクマとの関りはあったか


 あったっけ? あるかもしれないけど、用事があればしゃべる程度だったはずだ。友人でもなければ恋人でもない。ただのクラスメイト。



・前世はどんな時代だったか


 持ち運べる小さな機械で世界中と繋がれるようにはなっていたが、車はまだ空を飛んでいない。でも飛行機もヘリもあるし、金持ちは月に旅行に行ける。・・・まだタイムリープや瞬間移動や火星移住はしてない時代、になるのかな?



・この世界と前世の相違点


 魔法と電気があるかないか。この世界には魔法があり、火土風水のどれかを大体の人間は使える。ただ力の強さは個人差が大きく、殆どの人はそよ風を起こすとか手から数滴水を出すぐらいであり、代わりにつかわれているのが魔石だ。日常生活で使われるのは主に水と火と氷で、だいたい照明か台所で使われている。・・・そう言えば電話もないな。電話があれば一々家に招かずにすんだのに。



・原作について


 私の記憶の中にはない。考えてみると割とありふれた設定ばかりでそもそも特徴がなさすぎる・・・



・主人公について


 あのモモとかいうピンクの子が主人公で間違いなさそうだ。平民で王立学園に通っていたのだからおそらく勉強ができるか、魔力が強いのだろう。


 乙女ゲーだと平民として育ったが実は貴族や王族の隠し子だったことがわかり急遽貴族ばかりの学園に通うというのも定番な気がするが、彼女はどうなんだろう? ・・・そんなことが発覚すれば、噂好きの貴族が大騒ぎするだろうからそれはないか。

 

 乙女ゲームで主人公がいきなり貴族だらけの場所に行くのは、玉の輿を成立させるためだと思うが、なぜシャルルを選んだんだろうか。母がああまではっきりと言うとは思わなかったが、顔と性格がいいだけの気弱な私の元婚約者・・・いや、顔と性格がいいってよく考えると最高では? だけど乙女ゲームのメインとしては地味だと思う、スチルは映えるだろうけど・・・いや地味な見た目でも花散らしときゃ何とかなるのが乙女ゲーだったはずだ。キラキラさせときゃいいんだ。夏は水ぶっかけて服が濡れちゃった☆とかしときゃいいんだ。無駄に眼鏡を外したり、おバカキャラに眼鏡をかけさせたり、ギャップ萌え?ベースがないのにギャップもくそもあるか・・・


 なぜだろう、乙女ゲームについて考えているとドス暗い感情が湧いてくる。ちょっと一旦忘れよう。



・この世界のクマについて


 成績優秀で王立学園に入学し、3年間トップを守った。この3年間私との会話はなかったはずだ。平民と貴族ではクラスも違うし、受ける授業も違う。交流会的なものはあったが私は必要最小限しかでていない。だって平民と交流する必要ないし。


 そもそも平民は全員が特待生扱いで、一定の成績を下回ると即、国からの援助が打ち切られ退学となる。一方貴族はそれなりの寄付金さえ積めば誰でも入学できるし卒業できる。なので奥ゆかしい貴族はあまりよい成績を取ろうとしないのが不文律となっている。別にいい成績を取ったところで大体の貴族は家を継ぐのが決まっているので関係ないし。よって勉強ばかりしている平民とふわふわと遊んでいる貴族に大きく別れているのが私のしってる3年間だったけど・・・どうやってモモとシャルルは出会ったんだろう?



・シャルルについて


 母方の遠い親戚という話もあるが、貴族はだいたいどこかで親戚なのでこれはどうでもいい。幼いころ母がお茶会をしている間、私たち子どもは別室に集められていた。お菓子もあるし周りにメイドは沢山いるし、特に不自由なく一緒に遊んだと思う。寝ている子の横で走り回っている子もいるような状況の中、シャルルはよく私の横で絵本を読んでいた。静かな子だった気がする。ただ仲が良かったのは主に母親同士の方で、タロが私と結婚させろとうるさかったから婚約しただけで、別に私とシャルルが仲がいいわけではなかった。別に嫌いでもなかったけど。


 学園の入学式には一緒に行った。初めて制服を着ているところを見て、お互い少し照れた。3年間同じクラスだったけれど、校内で話したことはほとんどなかったような気がする。そういえば男子は剣や体術の授業は平民と一緒だった。そういう所から平民と仲良くなったんだろうか。シャルルは確か剣が強かった。学年3位になったと言っていた。来週学年対抗の試合があるから見に来てよと・・・


「でもお父様ほどじゃないんでしょう?」


 私はそう言って試合を見に行かなかった。試合といっても有志が集まってするだけの非公式なものだ。ただの遊びだと思っていた。


 シャルルは学校で個人5位になったらしい、一年生の時なんだから大したものだ。ただ私はそれよりも父が見物に来ていたと聞いたほうがショックだった。成績上位の子を軍部にスカウトする為だったらしい。


「お父様がくるなら行けばよかった。」


 シャルルは曖昧な笑みを浮かべて、黙って5位のメダルを弄んでいた。私はおめでとうなんて言わなかった。父は学生時代から剣でも魔法でも負けなしだったという。だから5位なんて全然大したことないと、心底思っていた。バカだった。


 シャルルはそれきり剣の試合には出なかった。彼は進路が決まっている貴族である為、軍部にスカウトされたい他の人たちに席を譲ったのだ。本来であれば一年生であっても試合に出なかった方がよかったが、それが彼のささやかな自己アピールだったのだとしたら、私はなんて酷いことをしたのだろう。何もわからないまま人生を決められたのは彼も同じだったのに。



 無言で毛布を差し出され、部屋の暗さに驚いた。もう陽が落ちて寒くなっていた。何度も声をかけたというメイドに礼をいい一先ず自分の部屋に戻った。部屋の暗さに呼応するように気持ちも暗い。前世の分の人生を合わせて考えると、いかに私がシャルルに冷たかったのか気が付いてしまった。実はシャルルってすごくいい子だったんじゃないだろうか。逃した魚は大きいというが・・・


 夕食を済ませ、寝るまでの間先ほどの続きを考える。クマとの話し合いの前に考えをまとめなくてはいけない。考えるべきはこの世界をどう乙女ゲームとして捉えるかだ。



 ・乙女ゲームの攻略対象としてのシャルル


 貴族の次男として生まれる。家の領地は大きくないが、豆が特産でそこそこ栄えている。だが家は長男が継ぐことが決まっている。顔もよく性格もいい。父がたまに手ほどきをしたせいか、剣の腕もなかなか。幼いころに親に決められた婚約者がいる。私だ。


 やっぱりどう考えてもパッとしない。地味だ。次行こう。



・乙女ゲームの攻略対象としてのクマンド


 平民出身だが幼いころから頭がよく(推測)、厳しい試験を経て王立学園に入学。3年間学力トップを守る。見た目はクマ。


 こっちも地味だ。次だ次。



・乙女ゲームのヒロインとしてのモモ


 平民出身だが幼いころから頭がよく???、王立学園に入学。見事婚約者がいた貴族を射止める。顔はいい。


 ーーーーこんな乙女ゲー嫌だ。他にいないの?!私ならこんなゲーム 絶対リリースさせない!


「あ、私もいたわね。」



・乙女ゲームの悪役令嬢としての私


 国内有数の貴族の一人娘。父は国一番と言われる強さを誇る軍人で、母は数字に詳しい才女。見た目は普通。魔力も普通。特に平民を虐めたりしない。というか眼中になかった。幼いころから親に決められた婚約者がいる。婚約者との仲は微妙。


 この並びでは派手な方だがやはりパッとしない。


「没になったゲーム案とかかなぁ・・・」


 いや普通設定は盛るでしょ。設定もキャラデザもモリモリのキラキラにするでしょ。


 ため息をつきながらベットでごろごろしていると、いつの間にか眠ってしまった。



 その夜嫌な夢をみた。


 ーーーこんなんじゃ売れるわけないでしょ!もっと考えて!売れてるゲームとか参考にして!


 誰かにずっと怒鳴られてる夢だ。私は俯いて必死に謝っている。


 すみません、すみません、必死で考えているんです。でももうよくわからなくって・・・乙女ゲームっていったいなんなんですか? 何が楽しいんですか・・・?


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