5.貴族たるもの
なんだか疲れたのでクマと別れて早々に帰宅した。朝の結婚相手を探さなくっちゃ!という勢いはすっかり消えてしまった。お昼の時間だがコーヒーの飲みすぎで食欲もない。
「俺たち絶対もっと色々話し合ったほうがいいと思う!」
別れ際にクマに言われた言葉だ。その場で拝みださんとばかりに縋られ、しぶしぶ了承してしまった。その後次はどこで会うのかという話し合いを色々した結果、明日クマが我が家に来ることになった。嫌だけれど仕方がない。町で会ってクマと噂が立つのも困るし、家ならば父に用事があったとかなんとかで誤魔化せるかもしれない。軍部班の参謀と政治班の新人に用事なんかある訳ないけど。
談話室のソファーに座り、晴れた春の庭を眺める。先ほどの図書館の庭よりも広々していて美しい。穏やかな風が吹いているので眠くなってしまう。運ばれてきたフルーツを摘まみながら考えた。貴族って最高だな。
ぼんやりしていると扉がノックされ、母が入ってきた。なにやらニコニコしている。
「どうされましたか?」
母が斜め向かいのソファーに座るのを待って問いかけると、驚くような答えが返ってきた、
「明日『次期宰相候補』が来るそうね。」
なぜそれを? 私は先ほど明日『友人』がくるからお茶の準備をするようにとしか言ってないのに。
「・・・よくご存じで。」
母はくすくす笑っただけだった。ドーナー家の護衛が付いていたのだろう。まさかこの歳になっても付いているとは思ってなかった。
「それで? 二人だけでお茶をするなんてどういった間柄なの?」
「・・・地球の危機を守ろうという話になりまして。」
「チキュウノキキ?」
母がポカンとした顔をする。母は淑女なのでめったなことでは驚いたり怒ったりしない。小さな時から母を困らせるようなこと言ったりしたりすると、苦笑して部屋を出て行ってしまうのが常だった。私はそれが嫌でたまらなくて・・・だから、時々突飛なことを言ってしまうのだ、この顔が見たくて。
「はい、この世界が危ないのではないかと思われるので、二人で対策を立てるつもりです。」
「チキュウっていうのは何なの?」
「この世界の別名です。」
母は穏やかな微笑みを浮かべて庭を見ている、だが目が少し泳いでいる。
「それは・・・お父様に相談したほうがいいのではないかしら。」
「そうですね、ただ具体的な危機の内容がわからないので、明日クマンドと精査する予定です。」
クマの名前よく覚えてたな私。
「そう・・・ところで、クマンドは好きな食べ物はあるのかしら?」
「さあ、存じ上げません・・・なんでも食べるんじゃないですか?」
やや投げやりに言うと、母は困った顔で笑った。
「チキュウの危機だとしても、あなたが独身の男性を招いたということは、彼があなたの新しい婚約者候補と見られるということですよ。」
「わかっております。」
母の言葉を遮るように言った。だから屋敷に招くのは嫌だったんだ。かと言って外で会っても絶対に文句を言われる。
「一度限りにします。」
「・・・いつまで経っても子供っぽいこと。」
母は呆れたように呟いて立ち上がった。
「別にうちは貴方の結婚相手が平民だろうと次期宰相候補だろうと気にしませんよ。シャルルだって顔と性格以外は何もない子だったし。・・・ドーナー家を継いでくれるならば。」
継げるものなら、と聞こえた気がしたが空耳だろう。
「承知しております。」
なら結構と言い、母は退室した。見送りは省略する。こういう所が子供っぽいんだろうか。
ため息をついて庭を眺める。先ほどより風が冷たくなった気がする。