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【完結済】生まれ変わったのに始まりません!  作者: 紫藤しと
第二章

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49.兄弟の話⑩

 その年の冬は穏やかに過ぎた。少しずつ屋敷を歩き回るようになった姪にみな目を細め可愛がった。私はこれまで通り平日は役所に行き、日曜日には教会に字を教えに行った。変わったのは役所の領主の部屋を兄と私が使うようになったぐらいだ。


 兄は一度説明されたことをすぐに理解し、質問を重ねどんどん改善点を見つけ出した。


「・・・兄さんの頭の中ってどうなってるの?」


「伊達に長年領主の息子をやってないさ。」


 兄は何でもないことのように言うので、実は私も領主の息子だとは言い辛かった。


 役所の中はなぜか床までキレイになり、どことなく漂っていたゆるんだ空気は姿を消した。私が気にしていた教会と呼ばれる町の集会所のような場所も、定期的に役所からの支援がでることになった。春からは文字と簡単な算数の教室も始めると言う。私が二年以上もモタモタしていた問題はあっという間に片がついた。


「そうか。しばらく留守にするんだから”先生”もできなくなるのか。」


 まだこの地方は寒い日が続くが、少しづつ春が近づいていた。兄は新たな先生役の人を何人かピックアップしていた。


「寂しい?」


 兄が書類から顔を上げて聞いてきた。


「寂しい・・・のかな。」


 どうなんだろう。寂しいような気もするが、別に一生の別れでもないし・・・


「今、頭に浮かんだ人は誰だい?」


 兄は再び書類を見ながら興味なさそうに聞いた。


「誰って・・・別に一生の別れでもないし。」


「君はもうちょっと自分の感情を自覚した方がいいね。」


 そう言うと兄は書類をめくり始めた。この話はこれで終わりらしい。兄は何を言っているんだろう。別に一年や二年会わなくったって、何も変わらないだろうに。

 


日曜日、私は新たな”先生”を連れて少し遅れて教会へ行った。


「せんせー、遅ーい。」「その人だれー?」


 子供たちがワイワイと話す中、私は彼を紹介した。


「新しい先生だよ。しばらくは3人で教えることになるからよろしくね。」


 ダリッチが目を丸くした。


「え、俺聞いてないけど・・・」


「ごめん、色々急に決まったんだ。春からは教室の数も増やすから、他にも何人か増えることになるよ。ダリッチにはまとめ役をやってもらうことになる。大変だと思うけどよろしくね。」


 ダリッチは一瞬怒った顔をしたが、すぐに目を伏せてわかったと言った。新しい先生とは言っても何度か手伝いに来てくれた人だったので、教室は和やかに進んで終わった。


 だが教会を出たすぐの道にダリッチが待っていた。


「どういうこと?」


 詰め寄るダリッチから目を反らし私は辺りを見回した。時刻は夕方で、お茶を飲める店もお酒を飲める店も開いていなかった。


「少し座ろうか。」


 私はそう言って広場の隅のベンチに座った。二年前の秋祭りにダリッチと一緒に座ったベンチだ。あれから秋祭りは開催されていない。開催は領主の仕事で、領主が臥せっているのに開催はできないという理屈だった。一応役所から多少の酒は配られたが、飲む人は少なかったという。


「あんた、いなくなるってこと?」


 ダリッチはベンチに座るなり言った。


「どういうこと? 何で? 俺のこと迷惑だった?」


 勢いに押された私はまごついた。相談しなかったことを責められるのかと思っていたので予想外だった。


「えっと、ちょっと落ち着いて? 迷惑って何?」


 ダリッチは何故かしゅんとして下を向いてしまった。いつの間にか背が同じぐらいになっているなあと、私はあまり関係ないことを思った。


「私も領主補佐になったからね、王都で色々やらなきゃいけないことがあるんだよ。当分帰ってこれないから代わりの人を用意したんだ。」


「・・・そうなんだ。」


 ダリッチは少し顔を上げた。


「うん、秋祭りの前には帰ってくると思う。あと兄さんが教室の数を増やす手筈を整えてくれたからちょっと忙しくなるよ。あ、さっきも言ったっけ。」


 私が笑うとダリッチも少し笑った。私はホッとした。


「俺のこと、嫌になった訳じゃないんだ。」


「・・・どういう意味?」


「俺から逃げるのかと思った。」


 ダリッチの言葉に私は首を傾げた。


「どこに行ったって私はドーナー家の人間だし、逃げるって何?」


 しばらく返事がなかった。ダリッチが言っているのは以前一生仕えると言ってくれた事だろうと思ったが、ひょっとして見当違いの返事をしてしまったのか。


「・・・あんた、キスされてどう思ったの?」


 長い沈黙の後ダリッチは言った。


「・・・ビックリさせたかったのかと思った。」


「あれがキスだってのはわかってるんだよな?」


「口と口が触れ合えばキスになるんじゃない?」


 ダリッチが大きなため息をついた。


「俺、あんたが何考えてるか全然わからない・・・」


 それはこちらも同じだ。そう思ったが口には出さなかった。


「もういいよ。とにかく教室が増えて忙しくなるんだな、わかったよ。」


 ダリッチはそう言うと立ち上がって大きく伸びをした。「ただこういう話は先に聞きたかったな。俺最初から先生役としているんだし!」


 結局怒られた。その後も二三文句を言われ私たちは別々に帰路についた。すっかり薄暗くなった道を歩きながら考える。あのキスにはどんな意味があったんだろう。それは、たぶん、考えても仕方のないことだとは思うけど。

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