46.兄弟の話⑦
秋祭りが終わるとすぐに日常が戻ってきた。義姉のつわりも徐々に収まってきた為、王都に戻ると告げられた。
「長時間の馬車は体に障るのでは? こちらで生んだ方がいいんじゃないですか?」
「そうね・・・でも何故だかそうしてもここから離れたいの。別にここが嫌という訳じゃないのよ。自分でも不思議でよくわからないんだけど・・・」
義姉は談話室の隅で珍しく言葉を濁した。父と兄は出かけていた。
「父も一緒に帰ることになりますし、マリアさんだけでもここに残った方が気苦労が少ないのでは?」
「別に私とお義父様は仲が悪いわけじゃなくてよ。」
義姉は笑いながら言った。
「仲が良い風には見えませんが・・・」
「まあ、良くはないわね。」義姉はあっさり肯定した。「でも家がない人に格安で家を提供したり、賭博を取り締まったり、警備隊を管理して治安の維持に努めたり。尊敬に値するいい領主様だと思うわ。」
「・・・いい領主であることといい義父であることは必ずしも両立しないと思います。」
義姉はくすくす笑った。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。私は強いから。それにアダールもいるしね・・・」
「兄は・・・最近様子が変じゃありませんか?」
なんというか、浮かれてるように見える。
「初めての子供に舞い上がってるみたい。」
あの兄が? 声に出さずとも顔に出たのだろう、義姉は困ったように笑った。
「正直私もよくわからないの・・・最初はあまり興味がなさそうだったのに、今はすごく楽しみだって。」
部屋に沈黙が落ちた。窓から秋の風が入ってくる。ここの冬は寒いから、確かに王都の方が妊婦にはいいのかもしれない。
扉をノックする音に夢から覚めたような気がした。
「どうしたの二人でこんな所で。」
兄は快活に言いながら義姉の隣に座った。肩を抱いて頬にキスをする。最近は万事こんな調子だ。
「新婚みたいだね。」
「新婚だからね。」
兄は見せつけるようにもう一度義姉にキスをした。
「王都に戻る話かい? 僕も心配だけど、マリアの希望だからね。」
兄が義姉の手を握る。「でも何があっても僕がいるから大丈夫だよ。」
微笑みあう二人からそっと目を反らした。ふとダリッチの言われたセリフを思い出す。
『俺があんたを守ってやるよ』
ぜひ守ってほしいものだ。今すぐにでも。
それからしばらくして父と兄夫婦は王都へと旅立った。領地の大きな屋敷には、私一人が残された。




