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4.俺tueeeeですか?

 私はさっそく攻略相手、もとい結婚相手を探しに外出することにした。


 念のため母にはもし元婚約者がなにか言ってきても謝罪は必要ないし、そちらの新しい婚約を祝福するとつたえて欲しいと頼んだ。あとのややこしい話は大人同士でして欲しいと。


 本来は学園を卒業したのだから、私も大人の仲間入りをしたと見なされるのだが、まあいいじゃないか。まだ3月だからギリOKということで。


 少し迷ったがひとまず王立図書館に行くことにした。なんせうちの隣にある。


 うちのドーナー家は昔から王家の軍事・護衛に関わることが多く、なんと王城の斜め横に家がある。もちろんそれぞれ高い塀で囲まれおり間には森と呼べるほどの木々があるが、ドーナー家だけが通れる隠し通路があって直接王城へ行けるようになっているというのは有名は都市伝説だ。私は父の行動から隠し通路が実在すると確信しているが、誰にも言ったことはない。私が消されそうだから。


 王城の前は大きな広場になっており、両端に色々な王立の施設がある。その中の一つが王立図書館だ。ついでに説明すると家の前の道を広場に入らず通り過ぎれば王立学園があったりする。  

 門までならうちから徒歩五分である。父の職場である役所は家の隣、私が昨日まで通っていた学園は家の隣の隣。馬車いらずである為、ドーナー家の御者は暇でいいとされている。確かに登城する時と母の外出ぐらいでしか日常で使われてないけど・・・


 つらつらとどうでもいいことを考えていると図書館についた。結婚準備があるのでしばらくは本など読めないだろうと思っていたので非常に嬉しい。ウキウキとどの本棚に向かおうかと思っていると急に声をかけられた。


「あ、吉田」


「はいっ?!」


 思わず返事をしてしまった。見ると大柄な男が立っていた。がたいがよく背も高い、硬そうな短い黒髪。


 同級生だ。見るからに強そうなのに、なぜか勉学でずっと学年一位だった男。


「えっと。クマさん? だっけ?」


「クマンドだけど・・・」


 クマっぽい男はジロジロとこちらを眺めている。ちょっと失礼ではないかしら。


「クマさん、そんな風に相手をジロジロ見るもんじゃないわ。」


「あ、ごめん。制服以外見たことなかったから・・・」


クマの顔が少し赤い、新しい服を着た女子を見たら惚れちゃうタイプの少女漫画的男子なんだろうか。


 後ろから咳ばらいをされ、慌てて謝罪し脇に移動した。よく見たら入口の真ん前で立ち止まっていたのだ。貴族にあるまじき醜態だ。私は貴族的笑みを貼り付けてクマをお茶に誘った。


 王立図書館の一階は受付の他にコーヒーと軽食を出す店がある。ガラスの大きな窓の前にはソファーも置かれていて、休憩や談話ができるようになっている。私たちは別々にコーヒーを買って大きな細長いソファーに未婚の男女に相応しい距離を空けて横並びに座った。


 クマがコーヒーを飲むのを横目で見ながら、私が奢るべきだったのかと考えたが、彼の4月からの就職先を思い出し不要だと考え直した。


「・・・どこからお話するべきかしらね?」


 クマが話さないので私から話すことにした。正直コーヒーは先ほど飲んだので、今別に飲みたくないのだ。


「申し訳ない」


 唐突な謝罪に眉間に皺が寄る。なんの話をしているのだとクマの顔をじっと見てみた。


 黒いゲジゲジとした眉、小さな目、どうしたってイケメンではない。ただどこかで見たような・・・?


「昔お会いしましたっけ?」


「3年間同じ学校でしたが」


 いやそうじゃなくて・・・もっと昔、前世で会ってる?


「吉田って言った?」


「うん」


「私の昔の名前、知ってるの?」


「吉田、光子」


「同じクラスだったっけ?」


「前世では、そう」


 私は大きくため息をついた。熊田だ。公立高校で3年間同じクラスだった、熊田君。下の名前は覚えてないけど。


「・・・久しぶり?」


「昨日も会ったけど」


 卒業パーティか・・・そうりゃそうだ、クマだって同じ日に卒業だ。頭を抱えたくなったけれど我慢した。貴族たるもの人前で取り乱してはいけない。


「他にも、いるの?」


「転生者?」


 あーもう無理だ。私は頭を抱えた。これまでどこか、全部夢だったとか、私の妄想だったとか、そんなオチを心のどこかで期待していたのだ。でもこれ現実ぽい! どうしよう! 現実がいかつい男の姿でやってきた!


「・・・大丈夫?」


 クマが心配そうに顔を覗き込んできた。私は背筋を伸ばして取り繕うことにした。私は平民のJKではない。ドーナー家の一人娘である。


「問題ないわ。ただ・・・昨日思い出したばかりなの。少し色々混乱していて。熊田君よね?私立文系で一緒だった。」


「変な所覚えてるね。」


 私たちが通っていた高校は二年からクラスが進路希望によって分かれていた。私立文系のクラスは二クラスだったので、二年と三年はほとんどメンツが変わらなかった。


「そうね、どうでもいいわね。」


 そうだ。今話すべきところはそこじゃない。また頭を抱えたくなったのを我慢していると、クマが話し始めた。


「実は俺もちゃんと思い出したのは半年ぐらい前なんだ。前世のことは昔から見る変な夢だと思ってて・・・ただ昨日のパーティで吉田が振られてるのを見て、これ、悪役令嬢の断罪シーンっぽいなと思ってさ、そしたら初めてミツコ・ドーナーが吉田光子だって気が付いたんだ。変な話だけど、それまで吉田の存在は知ってたけど、前世で会ってるってことは全然わからなかった。あんな振られてるとこみて思い出すなんて不思議なんだけど。」


「うん、とりあえず吉田って呼ぶのやめて。」


 あと振られた振られた言うな!


「あ、ごめん。えっと、ドーナー様?」


「あなただって近日中に貴族になるでしょう? ミツコでいいわよ。」


「それ、日本人の感覚だと照れるな。」


「照れなくていいから不審がられる言動は控えて。」


 横目で睨むとクマは困ったように頭を掻いた。実に素朴な顔だ。父や元婚約者が無駄に美形だったせいで、逆に見ごたえがあるかもしれない。もちろん悪い意味で。


「・・・異世界転生ってやつだと思う?」


 クマが私が聞きたかったことを聞いてきた。


「流行ってたわよね、高校時代に」


「流行ってたね。ただ結構長い流行りだったから、もう流行りというよりジャンル化した感じだったけど。」


「詳しいの?」


「少々齧った程度ですよ。」


 こういう事いう奴は大体詳しいんだ。


「で、ここは一体どんな話なの? 乙女ゲーでいいの?」


「知らないよ。さすがに乙女ゲーはやったことないし。」


 こいつも知らんのかい! 眩暈がした。ああ、今日はいい天気だなぁ・・・


「ただ昨日のイベント見たら完全に乙女ゲーか悪役令嬢ものだよね。どっちもアニメ化された有名な奴しか知らないなぁ。よ、じゃなかった、ミツコ?さん?はどうなの? 詳しいの?」


「私も有名なやつしか知らない・・・」


「ってことは、やっぱり主人公はあのモモなのかなぁ。・・・なんかあいつが主人公って腹立つけどそんなもんなのかな。」


 最後は独り言のようだったので聞き流した。


「モモって誰?」


「・・・あなたの婚約者を奪ったヒトです。」


 あのピンクの子か。名前そのまんまだな。


「平民の子でしょう? 用事でもなければ話すことないわよ。」


「王立学校は貴族と平民が共に勉学に励むことで相互理解を深めより良い国へ・・・」


「校訓は知ってます!」


 少し大きな声を出してしまい慌てて口を押えた。幸い近くに人はいなかった。


「モモね。確かにあの子がヒロインぽいわよね。で、学園物なんだし卒業パーティが終わったらエンディングなんじゃないの? どっかでスタッフロール流れてんの?」


「ミツコさんてテンパると素がでるよね。」


「? なんの話?」


「いえ何も。・・・スタッフロールねぇ。確かに卒業式が終わった後、結婚式のスチルがでていちゃいちゃした感じでエンディングってのがテンプレなのかなあ。やったことないから知らないけど。そうなると今ここにいる俺たちはどうなるんだろうね?」


「急に暗転して消えたりしてね」


「怖すぎるなそれ・・・」


 しばらく私たちはお茶を飲むことに専念した。モモが主人公で、ここに攻略対象っぽかった秀才がいる、となりに悪役令嬢っぽいのもいる。この流れでいくとモモも転生者なんだろうか? もう話すことはないだろうけど・・・いや、元々話したことがないような?・・・まあいいや。


 モモは大好きなゲームの中に転生して、ゲーム知識を駆使して無事目当ての攻略対象を落としたのだろう。おめでとう。ところで私とクマ君はこの物語に必要だったんですかね?


「私たち、なんのために転生したのかしら・・・」


「それな」クマがうなずく。


「俺もこの半年ずっと考えてたんだけど、どうにもわからなくて。昨日のイベント見るまでは色んな可能性考えてたよ。」


「例えば?」


「例えば・・・魔王討伐とか。」


 思うわず笑ってしまった。魔王(笑)


「笑うなよ・・・その場合、一番今魔王に近いのはお宅の父上だからな。」


 それは笑えない。でも確かに父が国で一番強いと噂されているのは事実だ。


「・・・そうね、少年漫画系だとそっちが王道ね。」


「だから体鍛えなきゃいけないのかなあとか思ったり。」


「あ、クマ君が主人公なんだ。」


「そりゃ前世の記憶持って転生したら普通主人公だと思うだろ!」


 クマの顔が赤い。そうね、そこツッコむのは野暮よね。


「ごめん。次期平民宰相の呼び声高い秀才ってイメージだったから。」


「この世界の学問レベルが低すぎるんだよ。真面目にやればあんただってトップとれただろうが。」


「貴族は学問の為に学園に通っているわけではありません。」


 それは知ってるけどさ・・・と小声でぶつぶつ言っているのを遮った。


「じゃなくて、魔王倒せそうなほど強いの?」


「本気出したことないからわからない。」


 厨二ぽい発言に目が細くなる。


「いや本当だって! 本気で魔法使ったら環境破壊しそうだから使ったことないだけで!」


「声落として。・・・クマ君の属性は?」


「火と土」


 土はともかく、火は出力大にすると怖いなぁ。大昔父に、湖に向かって大きな火魔法を使ってほしいと頼んだことを思い出した。とても広い湖だったのでここなら安全に父の魔法がみられると思ったのだ。だが父は言った。


「湖が干上がっちゃったらどうするの?」


 今でもあのすっとぼけた父の顔を覚えている。あの時はただ意地悪をされたのだと思っていたけれど、年を取るにつれてあれは本気だったのではと疑っている。


「・・・火と火の戦いってお互い燃えて終わりそうね。」


「勝手に戦わせて殺さないで。でも確かにそうだな・・・」


 お互いそれぞれしばらく物思いに耽った。考えていることは全然違っただろうけど。


「あ、思い出した。クマ君チートってないの?」


「ないなぁ、魔力が強いことぐらい? でも敵がいなきゃ意味ないでしょ。」


 これはずっと考えていたことなんだろう。クマはすらすらとしゃべった。


「特に詳しい分野とかもないし、魔法以外に特技もない。美人な幼馴染もいないし、聖魔法とか闇魔法とか使える人間とも会わなかったし、どこかの王様の隠し子って訳でもないみたいだよ。」


「・・・そうなんだ。」


 思ったより闇が深い。いや、私もクマに出会わなければこんな風に一人で悶々と考えてたのかもしれない。


 じゃあ我々ってなんの為にここに生まれたんだろうね?


 さすがに声に出すことはできなかった。

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