39.分岐点
叔父と二人で馬車に乗るのは初めてかもしれない。
私は叔父の横顔をじっと見つめながら考えた。まあ覚えてないだけかもしれないけど。
「何か用?」
叔父が困った顔でこちらを見る。手には書類の束がある。長い道のりを利用して読んでおきたい書類を持ってきたらしい。
「暇です」
「本を読みなさい。」
叔父はそう言うとまた書類を読み始めた。出発してからずっとこんな感じだ。途中で昼食を取った時でさえ上の空だった。
叔父が王都に来るのは20年ぶりぐらいだと言う。20年前ということは王立学園を卒業してから来ていないんだろうか。
「叔父様、学園で友人はいなかったんですか?」
叔父は顔も上げずに答えた。
「・・・卒業して、ずいぶん経つからね・・・」
しばらく言葉の続きをまったが、叔父は書類から目を離さなかった。私はため息をついて窓の外を眺めた。ついこの間も見た景色だ。こんな短期間でこの道を往復することになるとは。
王都の家を長期間空けるわけにはいかない。その点は皆が同意した。ただ、誰が戻るかについては揉めに揉めた。
母は次期領主である叔父が戻るべきだと主張し、叔父は当分まだ父が領主なのだから、自分は今までどおり領地で仕事を続けると主張した。長年領地から出ていない自分が戻るより、母の方が社交をうまくやれるだろうと。母は傷心により社交などできないと突っぱね、笑顔を固めたまま絶対に王都には帰らないと主張し続けた。最終的に第一執事が仲裁に入り、叔父が帰ることに決まった。ちなみに私はただのオマケだ。行く理由も留まる理由も特になかったが、なんとなく人数の偏りをなくす為についてきた。
「・・・あと2時間以内につくよ。ミツコは会いたい人いないの?」
急に話し始めた叔父を凝視する。なんなんだ。
「・・・つい先日までおりましたし、別に・・・」
叔父からの返事はなかった。なんなんだもう。思いついたこと適当にしゃべるのやめて欲しい。
----でも薄々は私だって気が付いている。私は道中本も読めないほどそわそわしっぱなしで、それに叔父が呆れていることぐらい。
会いたい人は、いる。それに料理だって王都の家の方が美味しい。帰りたい理由は、ある。でも今は言語化したくない。
「なっちゃん元気かな・・・」
元気だろうな。最後に会ってからまだ二週間経ってないし。会ったら色々聞かれるんだろうな。やだ照れる。・・・照れてもいいんだよね?このままフェイドアウトとかないよね?
相変わらずそわそわしっぱなしの私を、叔父は胡乱な目で見ていた。
夕方に王都につき、久しぶりの王都の朝を迎えた。やはりこちらの家の方が落ち着く。特に学園に通っていた3年間はあまり領地にも戻っていなかったので猶更だ。思春期の3年は長い。
私はいい気分で庭を眺めていた。庭もこちらの方が広くて綺麗だ。あとで手紙を書いて奈津子を呼び出そう。そんなことを考えていると叔父と第一執事が部屋に入ってきた。
「あら? 明日の謁見の準備があるのでは?」
私が問うと叔父は微妙な顔をして執事をみた。そして無言のまま私の隣に座り、執事は部屋の隅から椅子を持ってきて私たちの前に座った。執事が堂々と椅子に座るのを初めて見た。
「・・・何が始まるのかしら?」
「少し昔話を。」
執事がにっこりと笑った。
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