34.残された者
次の日の夜、疲れ切った顔の母と執事が領地にやってきた。
ドーナー家の執事は二人いる。第一執事は普段王都の家におり、父の出迎え以外で王都を離れることはない。第二執事は領地の家の切り盛りを任されており、こちらも基本領地を離れることはない。つまり父がいないのに全員が集まるのは異常事態だ。
お葬式のような夕食の後、母は談話室への移動も拒否して話があると言った。
速やかにテーブルが片づけられ、完全に部屋が沈黙する。
「奥様どうぞ。」
第一執事が母に封筒を手渡した。母は開けずにそのまま叔父に渡す。叔父は戸惑った顔で中身を読み始めたが、すぐに顔が暗くなった。途中からダリッチも一緒に読見始め、二人が読み終わると私のもとに書類がきた。内容は父の遺言だった。
次の領主は叔父であること、叔父とダリッチの結婚を認めること。母をこれまで通りドーナー家の金銭管理を任せること、一生生活を保障するが、再婚するなら家は出ていくこと・・・昨日聞いたよりも詳しく今後のことが書いてあった。しかしこれ、私のこと少なくない? 一人娘ですけど?
「夫は昨日の早朝に私を起こして、領地に行く、二度と帰らないといいました。」
母大きなため息をついた。寝込みを起こして酷いことをいう夫ですね。
「私には知らされていませんでしたが・・・夫は一昨日の昼に湖の異変を知り、この遺言のようなものを用意していたようです。そして翌日ここに来て、いなくなった。」
なぜか楽し気に自分のいなくなった後の指示を飛ばしまくる父が見える。私はチラリと壁際の第一執事を見た。以前見た時より小さくなったように見える。この人は本当に父のこと大好きだったからなぁ、気の毒だな。全部の後始末押し付けられたんだろうな。
「兄はまだ見つかっていません。ただ兄の強さを考えると・・・」
叔父は言葉を濁した。
「構いません、夫は自主的に姿を消したのでしょう。その気になれば、あの人なら山一つぐらい焼き払える筈です。」
怖っ。本当に魔王じゃないか。
「数日以内に王都から夫の捜索隊が来るでしょう。見つかるとは思えませんが、それなりに捜索したという実績も必要です。従業員一同は明日からその準備を。私も手伝います。ハジムは通常業務も滞りなくお願いしますね。」
叔父が手を挙げた。
「あの、マリアがしばらく領主をされた方がいいのではないですか?」
「領主代理がいるのに?」
母は薄く笑った。「通常であればお飾りでも妻がやるべきことかもしれませんが、ドーナー家に領主代理がいることは広く知られています。あなたがやるべきです、アダールもそう言ってますし。」
・・・母は怒っている。私はいたたまれなくなって目を伏せた。
「詳しいことは明日話しましょう。」
母はそう言って部屋を出て行った。私は少し考えた後母の後を追った。
「お母様、飲みましょう。」




