24.日曜日は続く
じゃあ今すぐクマのところに行こうと言い出す奈津子を必死で止めた。
「いやいや、私にも面子とか建前とか付き合いとか立場とかあるし!」
別に振られた相手に振られた場所で会いたくないだけじゃないってば。
「でも今日日曜日でしょ? 来週はもう4月だよ? さすがに明日行くって訳にはいかなし、とんぼ返りするにしたって二日はかかるんだから、すでにもうギリギリだよ?」
奈津子の言う通りクマにとってはかなり無茶苦茶なスケジュールだ。
「でも、なっちゃんだって仕事してるでしょ? どうやって急に休むの?」
「え、普通に休めるけど。」
奈津子はきょとんとした顔で言った。
「私がいるところは貴族部署だもん。仕事なんかほぼないし、一日お茶してる人だっているぐらいだし。」
・・・なにそれうらやましい。
「まあ私は一日お茶してる方が苦痛だから割と仕事してるけど。なんか人は向き不向きがあるから、やりたい事をやりなさいって感じ。日本じゃ考えられないけど。」
うん、仕事しすぎて死んだ人間には信じられない。
「それで仕事まわるの?」
「うん。平民部門は仕事しないと首になるから普通に仕事してるし、大丈夫。」
「貴族部門いらないんじゃ・・・」
「うーん、あれはねぇ・・・その人にしかできないっていうスキル持ちが多いから・・・いらないってことはないかなぁ。」
歯切れの悪い奈津子の言葉に前世の会社のおじさんを思い出す。役職は高いけどいまいち何してるのかわからない人で、毎日社内をフラフラしてた人がいた。当時は仕事しろよ!って思ってたけど、なんだか妙にみんなから慕われてたから、フラフラするのが仕事だったのかもしれない。
「こういう話、父親としないの?」
奈津子が不思議そうに言う。
「お父様がお仕事の話をされることはないなあ。正直軍部の相談役ってなんなのかも知らない。よく平日の昼間に家にいるのも偉いからだと思ってた。」
「・・・あのひとは 役職の割にはよく出勤してる方よ? というかあの人がいないと軍部関係の書類が溜まる一方だからって、国を挙げて絶対に引退させない方針だって聞いたけど。」
初耳だ。本当に偉い人だったんだな。
「まあそれはともかく。私はいくらでも休めるし、急に辞めても問題ないし、なんなら数か月後に復帰しても問題ないから。」
「そんな滅茶苦茶なことあるんだ・・・」
「言ってみれば名誉職だもん。自分の能力が国にとって役に立つと思えるなら、胸を張ってお給料をもらいなさい、思えないなら去りなさいって最初に言われた。それが貴族の矜持だって。」
すごいな・・・全世界がそうなればいいのに。
「という訳で、今からいこ?」
「いやいやちょっと待って。心の準備が・・・あとあの教会お母様と繋がりが深いみたいだから、私があんまり勝手に行かないほうがいいみたいだし。」
「じゃあ呼び出してあげよっか?」
「どこに?」
「もうすぐお昼だし、ごはん屋とか?」
「うち多分用意してるけど・・・」
「・・・それはちょっと食べたいけど! でもそんな事言ってる場合じゃないでしょ。早く行こうよ。」
「あ、今日お母様お出かけされてるから馬車がないわ! 馬車がないから今日は無理ね。」
「何言ってんの? 歩いていけばいいじゃない。」
「歩くの? 遠くない?」
「そこまで遠くないよ。というかお嬢様はお忍びで街に遊びに行ったりしないの?」
「忍ぶ意味がわからないわ。」
「意味・・・? え、羽を伸ばして遊びたいとか、たまには庶民の食べ物を食べてみたいとか、ないの?」
「ないわね。・・・一人で街で遊ぶというのもよくわからないし、食事はうちのが一番美味しいと思ってるし。」
「一人? ・・・あ、友達いないんだ。」
奈津子の視線が生温くなる。「そういや高校の時もずっと二人で遊んでたねぇ。」
「お互い様でしょ!」
「私は友達いたもん!」
「私だっていたよ!」
二人でにらみ合った後に同時に笑い出した。
懐かしい。昔はこんな風に馬鹿馬鹿しい会話ばかりしていた。
「変わらないね、私たち。」
しみじみ言う奈津子の言葉にうなずく。
「一回死んだらしいのにね。変わってないね。」
成長してないと言えるのかもしれないが。人は一回死んだぐらいじゃ成長しないのかもしれない。
さて!といいながら奈津子が立ち上がった。
「お嬢様は動かなさそうだから、私がクマ連れてきてあげる。感謝してよね。」
止めたいけれど止める言葉が見つからずあわあわする私に、奈津子はウィンクして部屋を出て行った。行動力がすごい。




