23.やっときた日曜日
心を無にして過ごした土曜日が終わって日曜日がきた。今日は奈津子が遊びにくる日だ。実は昨日急遽遊びに来る時間を午前中に変えてもらった。おかげで朝からウキウキだ。
会うなり苦笑する奈津子の手を掴み談話室に連れ込む。お茶を淹れたメイドを下がらせ、二人きりになった。ドアは細く開いてるけど。
「なんなのよ、もう」
奈津子が苦笑している。
「なんか色々あってね! 色々聞いて欲しいの!」
奈津子は苦笑しながらスコーンを割った。前回とても美味しかったらしい。
「あのね・・・」
話そうとしていきなり言葉に詰まった。何からはなせばいいんだろう? 黙った私を見て奈津子は不思議そうにスコーンを食べている。
「やっぱり私がこの世界を作ったみたい」
「ほう」
奈津子は食べる手を止めない。
「理由は私と魔王サマの壮大なラブストーリーのせいだった。」
「へえ?」
奈津子は咀嚼しながらこちらをしばらく眺めた。「うん、順番に話そうか。」
奈津子の質問に答えていく形で大方のことを説明しおえた。やっぱり奈津子は頭がいいな、さすが国立ストレート。
「素朴な疑問なんだけど。なんで私も一緒に転生したのかな?」
奈津子の質問ももっともだ。
「私のこと好きなんじゃない?」
「自意識過剰!」奈津子は笑った。
「まあ普通に好きだけど、世界を超えて追いかけてくるほどかというと、それほどでもなかったと思うんだけど。」
私も前世より昔の記憶はほぼないのでよくわからない。
「たまたまなんじゃない?」
「人の人生をたまたまで片づけるんじゃありません。」
奈津子が私を睨む。
「でもそんなものかもね・・・。何でもに理由はないか。」そう言ってため息をついた。
「・・・本当に前世の世界、滅ぼされちゃったのかな。」
私がポツリと言うと、奈津子は両手を広げた。
「確かに私の記憶はみっちゃんのお葬式の日で止まってるかもしれない。お葬式から帰って・・・犬の散歩にでかけた所までは覚えてるんだけど。」
「結構ちゃんと覚えてるね。」
「記憶力はいいもので。」
流石だ。
「でもその時に事故にあったのか、通り魔に会ったのか、天変地異が起こったのかはわからない。案外それ以降も何十年普通に暮らしてたかもしれない。・・・わからないものは、わからないね。」
確かにわからないものはわからないし、今となってはどうしようもないことなんだろう。きっと神様なら気にしない。魔王サマもまったく気にしてないみたいだし。
「で? 熊田とはどうなったの?」
思わず奈津子を睨む。避けて通れない話題だけど!
「・・・なんともありませんが?」
「どういうこと?」
「知りませんけど!?」
そんなのこっちが聞きたい。
「魔王サマの呪縛から逃れて、やっとくっつけるっていう壮大なラブストーリーじゃないの?」
「私もそうかなって思いましたけど! ・・・あちらにその気がないようです。」
奈津子が可哀そうなものを見る目で私を見る。
「わざわざこんな世界まで作っといて?」
「私に言わないでもらえます!?」
私は顔を覆った。別に泣いてないけど泣きたい。モテ女気取りだったのに振られるとか最低だ。
「まあ・・・時期尚早なんじゃないかな。きっと。」
「適正な時期っていつよ?」
「知らんけど・・・大人になったら?」
18歳はすでに大人ですが!?
「私ぐらいの年になれば、死ぬほど結婚を急かされるし。それぐらいになれば熊田も言う事変わるかもね・・・いや、男はそうでもないのかな?」
奈津子の顔が暗くなった。
「なっちゃんまだ二十歳だよね?」
「この世界では結婚適齢期です。役所に勤めている女性の7割はこの時期に結婚します。・・・ここを乗り越えたら逆に二度と言われなくなるよって先輩方には言われてるけど・・・」
奈津子の目が遠い。
「昔の日本みたいだね。」
「たぶんね。現代っ子の私にはキツイわ。現代っていつなんだって感じだけど。」
ははっと力なく笑った。沈黙が落ちる。
「えっと・・・そんな感じで、色々疑問は解けたけど、なにも進展してない感じです。もう仕事に生きようかと思ったけど、そっちも行き詰り。」
「なんの仕事?」
「領地の仕事。私一人娘だし。」
奈津子がふんふんと頷く。
「行き詰まりも何も、将来的にはみっちゃんかその家族が継ぐんでしょう?」
「うん。今王都にいるのもしんどいし、領地に戻って仕事覚えようかと思ったんだけど、お父様が一人で戻るのはダメだって。」
「ドーナー家なら護衛ぐらいいるでしょ?」
「いるけど・・・お父様が命令しない限り動かないから。命令する気もないみたいだし。」
奈津子が首を傾げる。
「・・・早く孫の顔が見たいから、結婚相手を探せって。」
奈津子がさらに首を傾げる。
「・・・つまりクマととっととくっつけって意味みたい。」
「魔王サマってほんと人外の考え方してるね。恋敵と、分身とは言え自分の愛する人がくっつくのを見たいのか。」
変だよねー。私もそう思う。
「じゃあ、くっついたら?」
「なっちゃん!!」
私は怒って立ち上がった。ついでにテーブルを回りこんで奈津子の横に座る。
「あのさ、領地にはロマンスグレーのイケメンがいるんだけど。」
奈津子の目が光った。
「しかも恋人は5つ年下の黒髪メガネのイケメン。」
「見たい!」
奈津子のこういう正直なとこ好きだ。
「ちなみにロマンスグレーの方が私の叔父です。父の弟だけあってかっこいいよ。40手前です。年下の彼氏はちょっとツンツンしてる。」
奈津子の目が更に輝く。私は奈津子の趣味を知ってるんだ。
「領地に行ったら見られるの?」
「どうかなー、私となっちゃんだけじゃお父様は許可してくれないんじゃないかなー。強い用心棒とかいないと?」
私の言葉に奈津子の口がへの字になる。
「私も一応は戦えるよ? 護身術程度だけど。」
「見た目が弱そうだから却下。襲われた時点で貴族の娘としてはアウトです。」
「用心棒・・・って言うと熊田じゃない? あいつ強いでしょ。」
今度は私の眉間に皺が寄る。
「・・・忙しいらしいよ。4月からの準備で。」
「2.、3日ぐらいなら大丈夫じゃない? バイトってことで。」
奈津子はのんきだ。
「もう一週間もないし・・・っていうか、なっちゃん仕事は?」
「ドーナー家で雇ってくれたら別に問題ないけど。」
奈津子の真顔に私は黙った。実は少し考えていた。奈津子なら社交も、領地の仕事もなんなくこなすだろう。なによりも信頼できる人にそばにいてもらえたらなにかと心強い。
「なっちゃん、メイドになる?」
「別にいいよー。学生時代飲食のバイトしたけど、結構楽しかったし。」
メイドと飲食のバイトは似てるのか? どちらもしたことがないのでよくわらかない。
「そっちは両親に聞いてみるね。でも用心棒の方は・・・」
「そこら辺のを雇ったって、たぶんドーナー家の用心棒にボコボコにされるだけだよね? だったらクマしかいなんじゃないの? 今から最強の勇者を探す?」
奈津子の言葉に私は黙るしかなかった。




