16.流星群の夜
高校入学してすぐの五月下旬、親睦合宿と銘打って2泊3日の合宿があった。オリエンテーションとか、飯盒でご飯を炊いてカレーを作るとかも一通りやったが、殆どが校歌をうたって過ごすというよくわからない合宿だった。ただこれのおかげでクラス全体が打ち解けた雰囲気になったので、きっとそういうものだったんだろう。
俺は何よりも二日目の夜を楽しみにしていた。その日の夜中2時から3時の間に流星群が見えると予想されていたからだ。地元ではビルや町の明かりに邪魔されて星なんてほとんど見えないが、合宿で行った山は近くに星の観測所があるくらい、星がきれいで有名な山だった。
一日目の夜ははしゃいでなかなか寝なかった連中も、二日目にもなるとみんな1時過ぎには寝てしまっていた。俺もつられて一瞬寝てしまい、起きた時には2時を過ぎていた。慌てて懐中電灯を片手にこっそりとテントの外に出た。どこのテントもしんとして静まり返っている。空を見上げるとすでに地元では見えないほどの星が瞬いていた。しばらくその場で見上げていたが、思ったより外灯の光が眩しい。俺は暗がりに移動することにした。テントの近くでなく、外灯がないところを探しているといつの間にか敷地の端っこにきていた。公衆トイレがあってその裏には外灯もなにもない空き地があった。星を見るにはうってつけの場所だった。
「風情はないけどね」
そう独り言をいいながら俺は空き地に一人座り込んだ。じっと空を眺めているとさっきよりも更に多くの星が瞬いている。
「あっちの方角のはずなんだけどなあ」
星はキラキラするばかりで、動く気配はなかった。ずっと見ていると動いたような気がしてくるが、たぶん動いてない。流星群ってこんなものなんだろうか。
「あ!」
星が一つ斜めに滑って消えたのが見えた。あれか? あれが流れ星なのか?
「え?」
トイレの向こうから女の声が聞こえてきた。他にも起きてるやつがいるのかと思ったが、騒がれると面倒だと思い姿を見せることにした。後からよく考えたら、別にそんなことする必要なかったのにな。
とりあえずわざと音を立てながら建物の陰からでた。相手の懐中電灯がもろに浴びせられる。女はヒッと小さな悲鳴をあげて懐中電灯を地面に落として尻もちをついた。外灯の明かりで同じクラスの女子だとわかる。ゼッケンには吉田と書いてあった。
「ごめん怪しい者じゃないから! 俺だよ! 同じクラスの熊田。」
慌てて外灯の光が当たる所まで出ると、吉田はまじまじと俺を見て言った。
「こんな所でなにしてんの?」
もっともだ。どう見たってあやしい。
「星見てたんだ。今夜は流星群がくるっていうから。」
星?と呟きながら吉田が空を見上げた。その横顔に見とれる。入学した時から可愛いと思ってた。話すのはこれが初めてだけど。
「ホントだ・・・すごい見えるね。」
俺は横顔から視線を剥がすと一緒に空を見上げた。吉田も立ち上がって一緒に眺める。
「あっちにあるのが北斗七星・・・わかる?」
「1.2.3・・・本当だ!ひしゃくの形してる!」
吉田が笑った。夜中に女子と二人きりで星を見ている。心臓がバクバクする。
「その上に春の大三角形があるんだけど・・・見える?」
「春の大三角なんてあるんだ・・・あれかな? 明るい星が三つある。」
「夏の大三角形が一番有名だね。・・・それで流星群が見えるはずなのがあっちの方向。」
あっと二人そろって声が出た。さっきまで動かなかったのがウソのように、次々と星が流れていく。
「すごい・・・こんなに次々落ちるものなの?」
「いやさっきまで全然だったんだけど、すごいね。」
見間違いじゃないかという疑念を打ち消すほど、数秒ごとに星が流れていく。
「・・・こんなに落ちて大丈夫なのかな」
吉田が小声で言ったが、なんせ自分も初めて流星群を見るのでよくわからない。たぶん大丈夫なんじゃない?という適当な返事をしようとした時、急に声をかけられた。
「何してんだ、お前ら。」
慌てて首を下にすると、少し離れたところに担任が立っていた。鬼の形相をしている。
「すみません、今流れ星がすごくて・・・」
「星?」
そう言いながら担任が近づいてきた。イケメンは怒っていてもイケメンだ。入学式の時に女子が騒いでいたのを思い出した。
「そうよ、今日は流星群なんですって。」
妙に落ち着いた吉田の声に違和感を感じながら、担任と一緒に空を見上げた。相変わらず数秒ごとに星が落ちている。
「・・・とにかく夜中なんだから寝ろ。」
担任の声に肩をすくめて返事をした。もう十分見た気がするし、仕方ないだろう。
「あ、私トイレ行こうとしてたんだった。」
「じゃあ待っててやるからとっとと行ってこい。熊田はさっさとテントに戻れ。」
一人だけ追い立てられるようにして歩き出し、後ろで話し声が聞こえた気がして振り返った。担任の顔はこちらからは見えず話の内容も聞こえなかったが、吉田が外灯の明かりに照らされて笑っているのが見えた。その笑顔を目に焼き付けて俺はテントに戻った。




