12.始まりですか?
同窓会は和やかに終了した。奈津子とは次の休みも会うことを約束した。クマは月末に貴族名鑑を返しに来ると言った。
二人が帰るとどっと疲れて、自室のソファーに倒れこんでしまった。なんせ情報量が多かった。加えて感情の振り幅も大きかった。天井を見上げてぼんやりしていると、ドアのノック音の後に父が入ってきた。慌てて体を起こそうとしたが眩暈がしてまた倒れこんでしまった。
「ああ無理しなくていいよ。」
父はそう言って向かいのソファーに座った。
「興奮して疲れちゃったのかな、君もまだまだ若いね。」
父はいつもと同じ顔で微笑んでいる。なのに少し違和感を覚えた。
「申し訳ございませんお父様。今日の夕飯はご一緒できそうにありません。」
「聞いてるよ。そっちの要件じゃないんだ。クマンドとはどうなった?」
それ、今聞かないといけない? 明日でいいんじゃない?
「特にどうも・・・友人にはなれたかと。」
「そう。ちなみに今話してるの日本語だって気付いてる?」
心臓が嫌な音で跳ねた。無言で父を見上げるとやはり微笑んでいる。私は無理やり体を起こしてソファーに座り直した。
「無理しなくていいのに。」
「無理させてるのはお父様でしょう。いえ、先生とお呼びすれば?」
「君に先生って呼ばれるのは嫌だな。お父様のほうがいい。」
嫌ってなんだ。と思ってから違和感の正体に気が付いた。この人は私を今、娘として見ていない。
「あなた・・・誰?」
「父であり、先生であり、息子だった時もあるよ。その前はずっと恋人だったよ、永遠のね。」
永遠の恋人。
何かのキャッチフレーズのような言葉に首を捻る。
「そうでしたっけ?」
「そうだよ。君の気まぐれでここしばらくはすれ違ってるけど。」
「・・・避けられてるのでは?」
「ひどいことするよね」
父からの熱っぽい視線に目を反らした。この目を知っている気がする。
「避けられてるのに、追いかけてるんですか?」
「僕たちはずっとそうだっただろう?」
知らんがな。
「覚えてないです。」
「まあ、今世では別にいいよ。娘に生まれちゃったし。僕、娘に手を出す趣味ないし。」
それは良かった。
「今世というと、来世でも追いかけてくるんですか?」
「もちろん」
「ストーカーって言いません?」
「問題ないよ、君も僕を愛してるし。」
「いや、完全にストーカーの言い草ですね!」
父に似た人がおやおやという顔で手を広げた。
「君も強情を張らずにいい加減逃げるのやめてよ。僕だって辛いんだから。」
いや、それ犯罪者のセリフ!・・・話が通じる気がしないな。
「・・・娘に生まれてるので、完全に避けてる訳ではないのでは。」
「この前は他人だった。しかも途中で僕の記憶を消したね? そのせいで君が死ぬまで君のことに気づけなかった。」
なんだか聞いちゃいけないことを聞いている気がする。
「出会っていたのに、君に気が付かなくて、気が付いた時には君が死んでいたなんて、僕がどんな気持ちだったかわかる? 目の前が真っ暗になったよ。だからあの世界を終わらせて君を追ってきたんだ。」
「終わらせた?」
「うん、君と僕がいない世界なんて意味ないだろう?」
魔王みたいなことを言う。ひょっとしてこの人魔王なのかな? クマをけしかけて倒してもらった方がいいのでは。
「滅ぼしたって意味ですか? あの世界にはまだ奥さんも子供もいたのでは?」
「子供は君と同じ時期に死んじゃった。だからもうどうでもいいかなって。」
開いた口が塞がらない。子供さんの事は気の毒だけど、他にもわんさか人はいただろうに。
「・・・私そういうサイコパスな方はちょっと。」
「それよりさ、どうやって僕の記憶を消したの? 君にそんなことされるなんて思わなかったよ。」
赤い目が私をじっと見つめる。少し怒ってる。この人はいつだって情熱的だ。
「覚えてないです。」
「ふうん、まあいいけど。僕が君のことを忘れるなんてことはないし、君だって僕を忘れないんだから。」
ものすごい自信だ。だけど安易に否定できない力があった。
「・・・言いたいことはそれだけですか?」
「うん? そうだね、色々思い出したみたいだから、今回は生きてる内に話し合おうと思って。また逃げられたら堪らないし。」
「逃げるとか・・・」
「あれは逃げだよ」
赤い目が私を射抜いた。
「僕を愛さなかったばかりか、僕の愛を受け止めることもなく死んじゃったんだから。僕はもう、二度とあんなことは許さない。」
後ろに赤い炎が見える気がする。この人はいつだって私を全力で愛してる。
「・・・わかったわ、アダール。今日は疲れてるの、一人にして。」
彼は微笑むと無言で立ち上がった。私の座っているソファーの後ろに周り、見上げた私の額にキスを落とした。
「愛してるよ、ミツ」
そう言って部屋を出て行った。




