10.とりあえずハッピーエンドを
奈津子が話し始めた。
「じゃあ当たり障りのないところから。3人とも同じ高校だったよね、私と熊田は中学が一緒だったけど特に話したことはなかった。ここまでいい?」
「うん、高1の時はみんな同じクラスだったね。で、担任が田中先生。・・・お父様なの?」
「お父様だねぇどう見ても。・・・別に普通の高校教師って感じだったけど、なにか覚えてる人いる? 俺の記憶では生まれたばっかの子どもにメロメロな愛妻家って感じ。あれ、顔がいいから女子高生をけん制する意味もあったよな。」
「そんな感じだったね。授業はわかりやすかったし、私は合間にでてくる世界中を旅行した話が好きだったな。通じる言葉って大事だなって思ったし。みっちゃんは?」
「うーん私も似たような感想・・・そんな、来世で親子に生まれてくるほど特別なつながりはなかったハズ。特別な会話もしたことないし。」
クマが何かを言いかけて止めた。
「何?」
「いやなんでも。じゃあ先生のことは取り合えず置いといて、高2高3は俺と吉田だけが同じクラスで、中川だけ隣のクラスだったよな。」
「そうだね。・・・まあ高校生活は三人ともそれぞれ色々あったと思うけど、とりあえずみっちゃんに話を絞ろうか。なんせこの世界の創造主だし。」
私は苦笑した。
「創造主って・・・それを言うならゲーム原案を考えたリーダーとかシナリオライターがそうだと思うけど。」
「その人たちもこの世界にいそう?」
いるんだろうか。ただ問題はがそのリーダーやシナリオライターの顔を思い出せないことだ。シナリオライターは外部委託だったので会社にくることはなかったし、上司であるリーダーは私に都合よくシナリオを押し付けてさっさと辞めてしまった。一緒に働いた期間は半年ぐらいだった筈だ。
「私、人の顔覚えるの苦手だからなぁ」
「今回もなんだ。前は人の顔のパーツはわかるけど、顔全体はわからないって言ってたけど今回もそんな感じ?」
「そんなこと言ってたの?・・・そうだね、たぶん。」
人の顔を思い出そうとしても目や眉毛などのパーツしか出てこない。顔以外の髪型や身長や声なんかは覚えてるけど。
「目の前にいたら似顔絵は書けるけど、見なかったら髪型しか書けないっていうのは衝撃的だったから覚えてる。」
そうか、こういうの普通じゃないのか。自分にとっては当たり前だからあまり考えたことがなかった。
「ちょっと待った。じゃあ吉田はどうやって人の区別つけてるの?」
「背格好とか、声とかかな。」
「・・・生きづらそうだな」
まあ確かに。でもどうしようもないし、今までなんとかなってきたし。
「とりあえずまだ会ってないってことでいいのかな? じゃあ話を戻して、熊田はいつ前世を思い出したの?」
「俺は半年ぐらい前。正確に言うと昔から夢は見てて、でもただの夢だと思ってた。半年前からだんだん前世の夢の頻度が増えて、色々思い出すうちに、なんか夢じゃないんじゃないかって思い始めた。で、確信したのが吉田がフられてた場面を見た時。」
「あー噂では聞いたけど、なかなか劇的だったみたいねぇ」
「噂になってるの!?」
私は天井を仰いだ。そりゃそうか・・・パーティだもんな・・・
「ついでに言うと男側の身勝手さと非常識を責める声が大きいけど、あの生意気なご令嬢がフられるなんて痛快☆みたな意見もある。」
「なんで追い打ちかけるのなっちゃん・・・聞いてないよ?」
「みっちゃんに意地悪するの好きなんだもん。」
奈津子が笑いながら抱きついてきた。そうだ、こういう子だった。なつかしーなーと遠い目になる。
「そんな嫌われてるとか、本物の悪役令嬢じゃん・・・」
「そりゃ本物の悪役令嬢だし。なんでそんなポジションに転生したの?」
奈津子が私から離れて首を傾げた。
「別に選んでないし・・・」
「創造主なら選べそうなのにね。」
言い返す元気もないので、自分が書いたシナリオを思い出す。
平民だけど魔法の力が高いからと王立学園に入学した(二番煎じ)新ヒロインは、生徒会のメンバーに憧れるが、すでに彼女がいることにがっかりする。そこに顔のいい攻略候補が現れて、みたいな話だった。シャルルとタロは候補だ。あと剣の強い子も候補にいたはず。
「・・・クマ君は登場人物にいなかったよ?」
「なんか微妙に傷つくな。・・・モモがヒロイン?」
「うん、ゲームではユーザーネームだけど、開発中はモモで統一してた。」
ピンクの髪だからモモ。単純なのは私だった。
「ただモモにしろ悪役令嬢にしろ、スチルで顔がないんだよね。乙女ゲーだったから。正直設定も適当に作ったし、私が悪役令嬢って言われてもピンとこないなぁ。」
「思い出せる悪役令嬢の設定は?」クマが質問した。
「大貴族の娘で、我儘放題、贅沢三昧。婚約者に執着してる。」
テンプレだねと奈津子が頷く。
「みっちゃんはシャルルがお気に入りだったし、普通にヒロインになれたら良かったのにね。」
「お気に入りっていうか、妙にスチルの出来が良かったのよ毎回。あれはイラストレーターさんの趣味だと思う。」
思い出した。あのゲームは有名人気イラストレーターと、人気声優5人ぐらいでもたしてたゲームだった。そっちにばっかお金使ったから他がカツカツで・・・
「吉田、顔が怖い。」
クマの言葉に背筋を伸ばして笑顔を作る。
「目が笑ってない・・・」奈津子がボソっと言った。
「うるさい。・・・とにかく、えっと、なんの話だっけ?」
「その悪役令嬢はどうなったの?」
クマの質問にせっかく伸ばした背筋が丸まった。
「・・・どうなったんだっけ? そこまでリリースしたっけ?」
奈津子を見ると肩をすくめて言った。
「知らない。あんた最期の数か月ほとんど連絡してこなかったもん。こっちから連絡しても返事来ないし。」
そうか・・・天井を睨んで考える。リリースしたかはともかく、何かしら考えてはいたはずだ。
「卒業パーティーで邪魔な婚約者を蹴落として二人は幸せにワルツを踊る。・・・それ以降は思い出せないなぁ。なんかもうストーリーが思いつかなくてこのまま18禁に突入してやろうかと思ったことは覚えてるんだけど。」
「・・・」
気まずい沈黙が流れた。
「ま、まあ、乙女ゲームの悪役なんて、断罪されたらト書きでサラっと退場ってのもテンプレよね。」
奈津子がぎこちない笑顔で言った。
「そうだな、そんなもんじゃない? じゃあつまり、ここから先はまだ創造されてない世界ってことかな?」
空気を変えるように放たれたクマの言葉に3人で顔を見合わせた。なっちゃんが切り出す。
「つまり、現実ってこと?」




