愛は二酸化炭素
内容は非常に短いですが、精神的に辛い方にはお勧めしません。気分を害する恐れのある内容なのでご注意ください。
「好きです、付き合ってください」
目の前にいる彼は少し照れながらそう言った。
断る理由なんてなかったし、彼女は頷いて答える。
「よろしくお願いします」
彼は優しい人だった。
話を聞いてくれる。
物を買ってくれる。
たくさん褒めてくれる。
笑って、喜んで、許してくれる。
彼女には勿体ないくらい素敵な人。
「好きだよ」
彼はこの言葉が口癖だ。
彼が「すき」と口にする度、彼女も笑って言った。
「私も好き」
幸せ。
二人ともそう感じていた。
感じていた、と思ってた。
心の奥が渦巻いて、掻き乱されてるこの感覚は。
喉の底が乾いて苦しいこの感情は。
彼女だけが笑顔の下に隠している全て。
人を好きになることが分からなかった。
彼と手を繋いで。
抱きしめあって。
キスを交わして。
性を交じりあって。
言葉で確認して。
その全てが薄く、なんでもないなにか。
手を握っている感覚があるだけ。
相手の汗の臭いに眉をひそめ。
口にまとわりついた唾液を拭きたくなり。
頭がくらくらして吐き気を催し。
頭の悪いインコのように言葉を真似て。
「幸せだね」
それでも、彼が見せる笑顔は嫌いじゃない。
「そうだね、私も」
彼女も同じように笑顔を浮かべる。
次はいつ会うことになるのだろうか。
彼女は冷めた目でカレンダーを捲った。
終
恋愛感情を持つことができない。性的なものを拒んでしまう。
彼女は常に解放を考えている。繋がれた細い紐が完全に切れてしまうその日を。しかし、彼が悲しむ姿は見たくないのである。