6話 江戸の町でござる
6話 江戸の町でござる
用意してもらった服に着替えた俺たちは、馬の乗り方をタケに教わった。彼は織田信長の右腕として、実際に馬に乗って戦場に行っていた男だ。
俺も1度は乗ったことがあったが、やはりそう簡単にはいかない。マサもかなり苦戦していたが、タケの素晴らしいレクチャーで2人ともなんとか乗りこなせるまでには成長した。
不慣れな馬でしばらく行くと、江戸の繁華街に出た。一目でこの町が栄えているということがわかった。朝早い時間だというのにも関わらず、無数の人が行き交っていて、あちこちから和気あいあいとした声が聞こえてくる。その光景は未来の東京と何も変わっていなくて、なぜか懐かしくも感じられるほどだった。
「これからどうするんだ?タケ」
「とりあえず、この江戸の町は早く抜ける。買い物を済ませたら、できるだけ遠くに行こう」
「な、なんでだ?もうちょっとここにいてもいいんじゃないか?」
「携帯のバッテリーが30%しか残ってなかった。電源が切れて勝海舟にブチギレられたら、今度は絶対に殺される」
「なるほど。そういうことか」
だが、買い物をしようにも俺たちはお金を持っていない。生きるためにも食料ぐらいは買っていきたいところだが、お金がなければどうしようもない。俺たちは頭を悩ませた。
「なあ、お前ら」
マサは元気がなさそうだった。顔もやつれ、明らかに体調は芳しくない。
「どうしたマサ」
「タケとヤスは、もうこの時代で生きることを受け入れたのか?」
「仕方ないだろ。タイムスリップしちゃったんだから」
マサは大きくため息をついた。
「俺は嫌だ。こんな時代で生きることなんてできない」
「何を言い出すんだ、急に。仕方ないだろ?」
「仕方ないことはない!死んだら元の世界に戻れるんだ。江戸時代なんてどうでもいいから、さっさと未来に戻ろうぜ」
「……」
「あのな、タケ。お前にはわからねえだろうが、俺には家族がいるんだ。子供もできたんだ。こんなところで時間を潰す暇もないんだ!」
マサはそう言い放った。その瞬間、俺の頭に綾の姿が浮かんだ。綾は今、俺がいなくなって何を思っているのだろうか。何をしているのだろうか。そんなことを考えると、俺の胸はギュッと締め付けられた。
「……そうだな。マサの言う通りだな。マサにもヤスにも家族がいるんだもんな」
タケは天を見上げた。彼はきっと、この機会を存分に楽しみたいと思っているはずだ。タイムスリップする機会なんて、人生で何度もあることではない。この一瞬さえもが、彼にとっては貴重なものなのかもしれない。
ただ、俺とマサは少し事情が違う。守るべきものを未来に置いてきてしまったのだ。無責任に放置していいものではない、きっと家族とはそういうものだ。
「もう死のうぜ」
マサの言葉には重みがある。子供を持った父親としての威厳か何かが、透けて見えるような気がした。
「……わかった。俺もワンピースの続きが気になるし、死んで未来に戻ろう。でも、1つ条件がある」
「条件?」
「せっかくタイムスリップしてきたんだ。坂本龍馬と一緒に写真を撮ってから死のう」
タケは満面の笑みを俺たちに向けた。
「坂本龍馬?あの坂本龍馬か?」
「ああ、そうだ」
「この時代にいるのか?」
「勝海舟はいたってことは、今は江戸時代末期。坂本龍馬だっているはずだ」
「だけど、一緒に写真を撮るなんて可能か?」
「そんなのやってみなきゃわからねえだろ?」
マサは黙ってタケを見る。俺にはマサの気持ちもタケの気持ちも両方わかる。家族に会いたいという愛情も、坂本龍馬と写真を撮るというロマンも、捨て切れないものだ。
「……わかった。じゃあ坂本龍馬と写真を撮ったら、すぐに死ぬからな」
「おう。そうしよう」
俺たちは馬を西に向けた。坂本龍馬は土佐藩の出身だ。まずは龍馬の情報を集めるべく、京都に向かうことになった。
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