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刀は要らぬ 〜激動の明治維新!〜  作者: しいらしゆう
江戸時代へようこそ
3/18

3話 タイムスリップでござる

 俺は突然目を覚ました。自分が地面に寝転がっていることに気がついて、ゆっくりと体を起こして体についた泥を落とした。

 慌てて周囲を見渡したが、あの居酒屋の店舗はどこにもなかった。視界に入るのは無数の草木だけで、建物の光すら全く見当たらなかった。俺はその状況に、明らかな既視感を覚えた。


「おい!タケ!マサ!」


 俺は怖くなって叫んだ。


「ヤス!ここだ!」


 かすかにタケの声が聞こえた。ポケットから携帯を取り出し、足元を照らしながら彼の元へと向かった。電波は来ていないのか、圏外と表示が出ている。俺は舌打ちをした。


「タケ!いるか?」

「ここだ!マサもいる」


 木の根っこにもたれかかっている2人を発見した。2人とも無事なようだが、マサは何かに怯えて小さくうずくまっている。


「大丈夫か?マサ」

「……ああ」


 マサはそう答えたが、まるで大丈夫そうには見えない。だが、彼がそうなる理由を俺は薄々理解していた。似たようなことを、俺たちは過去にも経験している。

 タケの顔を見ると、彼は呆れたような微笑を浮かべていた。


「……またタイムスリップしたってことか」

「そのようだな」

「チッ!また死ぬまで未来に戻れないのか」

「とりあえず、俺たちがいる場所がどこか確認しよう」

「……ああ、そうだな。マサ、行くぞ!」


 タケは縮こまるマサに手を差し伸べたが、マサは首を横に振った。


「なんでもうこの状況を飲み込んでるんだ?またタイムスリップさせられたんだぞ!」

「マサ、お前の気持ちもわかるが、こんなところにいても何も始まらないだろ?そもそもいつの時代かも分かりはしないんだ」

「また戦国時代だったらどうするんだ?また殺されるぞ!」

「殺されたら未来に戻れる。万々歳じゃないか」


 俺とタケは嫌がるマサを無理やり起こした。初めはマサも抵抗したが、そのうち口数も減って落ち着いてきた。

 携帯のライトだけを頼りに、果てしない森を進んでいく。幸いなことに雨はすぐに止んだが、それでもぬかるむ泥に足を取られることは少なくなかった。

 

「お、おいお前ら!どこまで行くんだよ!」

「とにかく町を探すしかない。泥の上じゃなくてベッドで寝たいだろ?」

「ベッドがある時代じゃないかもしれないぞ!」

「それでも泥よりマシだ」


 2回目のタイムスリップとあってか、俺とタケに迷いはない。俺とタケは戦国時代を2年以上生き抜いてきた経験と知識がある。対してマサは、戦国時代に来たはいいものの、ドジってすぐに死んでしまったのだ。怖がるのも無理はない。


 

 2時間ほど歩き続けた。高い木々に囲まれたこの森では、月の光さえ頼りにならない。来ていたスーツは泥まみれになってしまい、ジャケットは森のどこかに捨ててきた。


「あれ、町じゃないか?」


 タケが指差す方向をよく見ると、確かに家屋が並んでいるのが見えた。暗くてよく見えないが、それなりに大きい町ではないだろうか。


「とにかく、この丘を降りて町に行こう」

「お、おい。明日でも良くないか?時代が時代だったら殺されるぞ」

「時代がいつかわからなきゃ、俺たちもどうしていいかわからないんだ」


 タケはそう言うと、1人で町の方へ歩いて行った。


「あ、ちょっと待てよ!」


 俺とマサは慌てて彼の後ろをついていく。

 俺たちは丘を降りて雑木林を抜けると、幾つも田んぼが広がっていた。その先に小さな民家が建ち並んでいるのが見えた。

 タケは携帯のライトで慎重に周囲を照らしながら、田んぼの横の道をゆっくりと歩いていく。俺とマサは彼に続く。


「ん?」

「どうしたタケ」

「これを見ろ」


 タケがライトで照らしたのは、大きめの機織り機のよう物だった。タケがそれを入念に調べるのを、俺とマサは横の立って待っていた。日本史をしっかりと理解しているのは、高校時代に日本史をとっていた彼だけだ。


「これは千歯扱き(せんばこき)だろうな」

「な、なんだそれ」

「稲とか麦とかを脱穀するための装置だ。本物は初めて見た」

「それで、この時代は何かわかったか?」

「江戸時代で発明された農具だったと思う。だからおそらく江戸時代か、それ以降だ」

「でもあの民家、どう見ても近代的ではない。安土桃山時代の時とあまり変わらない」

「じゃあ、やはり江戸時代かもな」


 タケはゆっくりと立ち上がると、また民家の方へと歩みを進めた。


「なあ、時代もわかったんだし、今日はこの辺で野宿にしないか?」

「江戸時代って言っても250年以上あるんだ。もっと詳しく調べないとダメだ」

「……マジか」


 マサは心底ガッカリしている様子だったが、タケを止められる者は誰にもいない。


「マサ、お前もお布団で寝たいだろ?宿屋があれば寝かせてくれるかもしれない」

「そんなに簡単に行くのか?」

「さあ……」


 肩を落とすマサの手を強引に引っ張り、タケの後を追う。彼はもうすでに田んぼを抜けて、民家の前まで来ていた。


「どこの家も灯りがついていない。もう夜中だから仕方ないな」


 俺とマサがようやく町に到着すると、タケは小声でそう話した。彼の言う通り、町には一切の光源がなく、数メートル先もほとんど見えない。


「もう携帯はしまっておけ。怪しまれる」


 俺は携帯をズボンのポケットに入れた。視界はさらに暗くなった。


「とりあえず3人で手分けして宿屋を探そう」

「わかった。俺はこっちに行く」


 3方向に分かれた俺たちは、それぞれの足で宿屋を探して町を歩き回る。だが、宿屋を探すことはそれほど簡単な作業ではなかった。民家と見分けがつかず、建物の前に立ち止まっては度々頭を悩ませた。


「わかんねえな……」


 つい独り言をこぼしてしまう。戦国時代を2年以上生きていたのは紛れもない事実だったが、宿を探すこともままならないとは、自分が少し情けなく感じた。

 俺はボンヤリと空を見上げた。先ほどまで雨を降らせていた雲はどこかへ消えて、数え切れない数の星が空を埋め尽くしていた。俺はその光景を眺め、息を呑んだ。おそらく未来の日本では見ることのできない、圧巻の景色だった。


「おい!ヤス!逃げろ!」


 町の真ん中で空を見上げていた俺の意識を現実に戻したのは、どこからか聞こえてきたタケの叫び声だった。

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