2話 あの3人組でござる
久しぶりにタケから電話があったのは、結婚記念日の次の日だった。マサと3人で飲もうということだったので、俺は二つ返事で了承した。
集合場所に指定された店は、タケの家の近くにある、なんてことのない普通の居酒屋だった。
「おう、ヤス!やっと来たか!」
「久しぶりだな、タケ、マサ。遅れてすまん、電車が遅れてた」
テーブルには既に沢山の料理が並んでいた。俺は側を通りかかった店員さんにビールを注文してから、タケの隣の席に座った。
「いつぶりだ?」
「3人で集まるのは2年ぶりだな」
「そうか、そんなにもなるのか」
こうして3人でテーブルを囲うことには、何か感慨深いものがある。もはやただの高校時代の友人ではない。戦国時代に一緒にタイムスリップした、最高の仲間なのだ。
「おいヤス。綾ちゃん最近どうだ?」
「元気にしてるよ。おかげさまで」
「結婚して何年だっけ?」
「この前2年になった」
「仕事は?」
「まあ、ぼちぼちだな」
久々の再会とあってか、最初はそれぞれが近況報告を済ませる。俺は割り箸を割って、つまみを口に入れた。
「実はさ、お前らに見てほしい写真があるんだ」
マサは突然そう言うと、カバンから携帯を取り出してテーブルに置いた。俺とタケは身を乗り出し、その写真に目を運んだ。
「な、何だこれ」
「レントゲン写真か?」
マサは嬉しそうに頷いた。
「実は、子供ができたんだ」
マサの告白に、俺とタケは目を合わせた。
「まじか!」
「ああ。男の子だ」
「お前、嫁さんが大変な時にこんなところで飲んでていいのかよ」
「ユミは今友達の家に行ってるんだ。俺と一緒にいると、どうもつわりが酷くなるみたいでさ」
マサはそう愚痴っぽく言いながらも、表情はとても明るい。結婚生活が上手くいっている何よりの証拠だ。俺と綾の結婚生活が上手くいっていないことはないが、なぜか少し羨ましく感じた。
「子供かぁ〜。俺も欲しいな」
タケは天井を見つめながら言う。この3人で独身なのは彼だけだ。
「お前はまず彼女を作るところからだな」
「つい先週フラれたんだ。結婚まで考えてたのによ」
「ああ、それは残念だな」
学生時代は誰よりもモテていた彼の婚期が一番遅いだなんて、誰が予想できただろうか。恋愛とはやはり不思議なものだと、改めて感じた。
「おいヤス、あれ見ろよ」
タケはビールを飲んでいた俺の肩を揺すり、居酒屋に設置された小さなテレビを指差した。俺がそこに目をやると、有名なアナウンサーが出ているNHKの歴史特集番組が流れていた。
「戦国時代に生きた思想家、安田健太特集だってよ。お前も有名になったな、ヤス」
「誰が思想家だよ。せめて政治家にしてほしかったもんだ」
「当時は政治家なんて職業はなかった、ってことだろ」
俺は呆れつつも、その小さなテレビを見ていた。店内が騒がしくてハッキリと音は聞こえないが、俺が戦国時代で残した功績をわかりやすく解説しているようだった。
昨年の教科書の改訂で、俺の名前が歴史の教科書に載ることになったらしい。それ以来、俺の名前の認知度は徐々に上がっていき、最近はこうして番組で取り上げられることも少なくない。
「日本史の中では、今やヤスは坂本龍馬と同じぐらい重要らしいからな」
「嘘だろ?俺はそんなに大したことしてない」
「再来年の大河ドラマ、ヤスをやるらしいぞ」
「え?それマジか?」
「ああ。NHKの友達が言ってた」
「くそっ。俺のことをやるなら印税くれてもいいのにな」
「じゃあNHKに言いに行くか。安田健太は俺だって。タイムスリップして歴史変えてきましたって」
「ハハハ。信じてもらえないだろうし、やめとく」
俺はビールジョッキを口に運んだ。お酒に弱いのは相変わらずだが、量は少なくとも楽しく飲めるようになったということは、この2年の大きな成長だと感じる。
話は大いに盛り上がって、3時間ほど楽しく話し続けていたが、終電が迫っていることもありお開きになった。
割り勘で会計を済ませ、居酒屋の暖簾をくぐって外に出た。俺たちはそこで同時に足を止めた。予報にない大雨が地面を叩きつけていたのだ。
「誰か傘持ってる?」
俺が恐る恐る聞いてみると、2人とも首を振った。絶望的状況だ。終電の時間は間近に迫っている。
「……走る?」
タケの問いには俺もマサも反応しない。もちろん家には帰りたいが、濡れたいわけでもない。
「おい、お前ら。何だあれ」
タケは歩道の上に落ちている何かを発見し、指を差した。そこには確かに何か発光する物が落ちているが、その正体はいまいちわからない。
タケは大雨の中、躊躇うことなくそれを拾いに行った。
「あいつ……。風邪ひくぞ」
「ほっとけ。馬鹿は風邪ひかないらしいからな」
タケはすぐに戻ってきた。落ちていたものをちゃんと拾ってきた様子だ。
「おいタケ、濡れてるじゃないか。どうすんだよそれ……」
「そんなことはどうだっていいんだ。これ見ろよヤス」
タケは拾ってきた物を俺に渡してきた。俺はそれを受け取ると、妙に真面目な顔をするタケの方を見た。
「いいから。早く見ろ」
俺は自分の目を疑った。それは、俺が綾にあげた婚約ネックレスに付いているあの美しい石と、同じ輝きを放っているのだ。暗くてよく見えないが、同じ種類の石に間違いない。
「お前が綾ちゃんにあげた婚約ネックレスと同じ石だろ?」
「間違いない。それにこれの石は、綾が持っていたブレスレットにもついていたんだ。春日部の火事で無くなっちゃったけど」
「綾ちゃんもこの石を元々持ってたのか?」
「ああ」
この石に何が隠されているのか、それは謎のままだ。しかしただ1つ言えることは、この石には何か不思議な力が隠されている、ということだ。
「はっくしゅん!」
傘も刺さずに石を拾いに行ったせいか、タケは派手なくしゃみをした。俺とマサはそんな彼を見て笑っていた。
だがその瞬間、目の前の空に大きな光の柱が突然現れ、ほぼ同時にとてつもない轟音が耳を襲った。
「雷か!」
「これは近いな……」
「……」
「……」
なぜか意識が段々と遠くなっていく。目の前が真っ暗になって、手も足も動かせなくなった。そしてあっという間に、俺は完全に気を失ってしまった。
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