1話 結婚記念日でござる
本作は「刀は要らぬ」シリーズの第2作です。第1作をご覧にならなくても十分にお楽しみいただけますが、もし興味がございましたら是非第1作もご覧になってください。
「刀は要らぬ」↓
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時間の流れはいつも早い。
戦国時代にタイムスリップしていた俺たちだったが、それももう既に過去の話だ。この現代日本に戻ってきて、もう7年が経とうとしている。
今の日本はやはり平和だ。至って平和だ。世界が再び戦争の脅威に飲み込まれようとしている今この瞬間も、俺たち日本人は普段通りの日常を送ることができる。
防空壕の整備をするわけでもない。護身術を習得するわけでもない。日本人にとって、戦争とはテレビのニュースの中の出来事でしかなく、テレビさえ消してしまえばそこは争いのない平穏な日常なのだ。
この現状を平和と呼ぶか、平和ボケと呼ぶかには議論の余地はあるだろう。だがどちらにせよ、今の日本があるのは幾多の政治家のおかげであることを、俺たちは理解しなくてはならないと思う。
俺は戦国時代の歴史を一部変えた。そこで政治に携わった俺は、その道の険しさを初めて思い知った。それ以来、何をしてもすぐに炎上してしまう今の政治家に、俺はどこか同情せざるを得ない。
そんな俺ももう28になった。戦国時代に出会った綾と、現代で再会し結婚してから、今日でちょうど2年になる。
「乾杯!」
そう言って俺たちはグラスを鳴らした。彼女の首には、俺がプロポースした時の婚約「ネックレス」がキラキラと光っている。
「なあ綾。初めて会った時の事、覚えてる?」
「うん、もちろん。春日部の清洲城の近くの、春日部医学館っていう診療所。ヤスはすごいダサイシャツを着てた」
「よくそこまで覚えてるね」
「忘れられるわけないじゃない。タイムスリップする機会なんてもう二度とないんだから。あの時代を生きた記憶は、一生忘れないって決めたの」
彼女はそう言って笑った。その笑顔に救われた回数は数知れない。あの過酷な時代を何年も生き抜けたのは、きっと彼女のおかげだ。
彼女は肉のステーキを大きな口で頬張ると、表情だけで俺にその美味しさを伝えようとしてくる。
「おいしい?」
彼女は大きく頷いた。俺の少ない稼ぎでは、こんなに高い料理は記念日ぐらいしか食べられない。彼女が喜んでくれるだけで俺は十分満足だった。
だが、彼女は口に入れたものを飲み込むと、少し心配そうな目で俺を見つめてきた。
「綾、どうかした?」
「ねえ、ヤスはさ、またタイムスリップしたいと思ってる?」
「え?な、なんで?」
「仕事、あんまり楽しくないんでしょ?」
「……」
「あっちの時代にいた時は、秀吉さんと日本を統一するっていう目標を持って、死に物狂いで頑張ってた。今のヤス君の目は、あの時の輝きを失ってる」
彼女の言う通りなのかもしれない。「誰の血を流すことなく全国を統一する」という俺と秀吉さんの高すぎる目標は、確かに険しいものだったが、それ自体を追い求めることが生き甲斐にもなっていたのは事実だ。
それと比べれば、今の俺の仕事には張り合いがない。市役所に勤めるただの公務員の俺は、毎日単純作業を繰り返すだけだ。俺はただ、家族を支えるためだけに仕事を続けているようなものなのだ。
「なあ綾。俺との結婚生活、楽しい?」
「もちろん。幸せだよ」
綾は躊躇うことなくそう答えた。その言葉に嘘はないことを信じたいが、俺にはまだ迷いがある。
そもそも彼女と出会ったのは、戦国時代という右も左もわからないような世界だ。そんな時代を2年以上も一緒に生きていたら、綾は俺でなくてもその人を好きになっただろう。
俺の彼女に対する愛情には疑う余地はない。だが、彼女は違うかもしれない。こんな俺と結婚して本当によかったのだろうか。結婚してから2年、俺は未だにその答えを探している。
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