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敢えて深く切り込んで

  『敢えて深く切り込んで』



 「…お前は、何処まで把握してんの?」

 殊の外急かしてしまったか、大概に話の舵を取り損ねた彼は先ず私に話の先を取って貰いたいらしい。


 「土曜日のお出掛けの顛末については、まぁ粗方」

 言い乍ら、事後に彼女と交わした会話を脳裏に浮かべていた。


~~~~~

 「何が有ったか、二人に話す迄が目的なんだろ?」

 一線を此方側に乗り越えて、二人との間に新たな線を引いてしまうことが。


 切創を縫い合わせて広がりを押さえるのではなく、敢えて深く切り込んで血の流れを逸らす事を選んだのだろう。


 「…う、ん」

 手段の思い切りに反して言葉の歯切れは酷く悪い、当然だ。衝動に任せ、半ば自棄っぱちに採った策であればこそ、後の顛末によって圧し掛かる重圧になど考えが及ぶ筈は無い。


 「…聞かれたら、俺が話すってんでどうだ?」

 『乗り掛かった舟』、『毒食らわば』。色々と建前は浮かぶが、結局は『受け止めた人間としての責任を果たす』と言う事由がこの提案を導いた。


 「…それは、ズルだよ」

 「あぁ、一人で格好つけようってのは確かにズルいだろうな」

 「…そうじゃなくて」

 無論、言わんとする所は容易に想像がついた。其れでも尚空惚ける。先程の事由に如何ばかりかの本音を付け加えて良いのなら、『当事者として関わりたい』と言う願望も決して少なくはないのだ。

~~~~~


 「お嬢の誕生日プレゼントを買いに行ったって?」

 お嬢、風紀、いいんちょ、我々が各々に好き勝手呼ばわるその女子生徒こそ、件の三角形の残り一点だった。

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