【続】鍛冶師の弟子 〜存在しない架空戦記のクライマックスっぽいお話〜
「鍛冶師の弟子 〜存在しない架空戦記の外伝っぽいお話〜」の続編というかこぼれ話と言うかアレです。
本編内の剣や剣術に関するうんぬんは全て架空のものですので鵜呑みにしない様にご注意ください。
キョインキョインと、音だけを聞いたら何が起こっているのか分からない金属音が飛び交う。
場所は王城にある謁見の間と呼ばれる広間だ。
いや、だったと言うべきか。すでに城の大半は消滅して平地と化した。
最初に踏み込んだ時、魔王は玉座に座ったまま一行を待ち受けていたのだった。
身長2m近い黒衣の魔王が黄金の剣を振るい、160cm程の小柄な剣士が漆黒の剣でそれを逸らす。
名乗ることは無かったが小柄な剣士は勇者であり、その力は魔王のそれと拮抗していた。
あとは純粋な力と力の勝負となったのだ。
「なぜだ、なぜ神鉄の聖剣で切れぬ、砕けぬ」
神鉄、いや神金と言った方がふさわしいが、この金属は地上にあるあらゆる素材より優秀で、人間に寄って加工されることも破壊されることもない。神がその姿で地上に下ろす物だ。
魔王が振るう剣は王国に安置されていた神から授かりし聖剣だった。
魔王はその強大な力を持って聖剣に刻まれていた契約を書き換え手に入れていたのだ。
多少弱まったとは言え、その力は絶大だった。
対する剣士の剣は鋼だった。
本来ならば剣ごと真っ二つに切り裂かれて当然なのだ。
「この剣はエルフの賢者の理論に基づいてドワーフの鍛冶師が生み出した玉鋼を使って僕と師匠が創り上げた最高の剣だ」
「そ、んな、物でえええっ!!」
「この側面の溝はどうして付けるんですか?」
とあるひなびた町の外れにある一軒の鍛冶屋。
今まさに世界の運命を掛けた剣創りが行われていた。
「ああ、突き刺した時に、そこから血がドバーっとな…」
「え…」
「と言うのはまあ、半分冗談なんだが」
半分は本当なんだ…
「剣と言うのは横から見たら薄い板だろ」
「はい」
「つまり、横から力が加わると、こう、戯わけだ」
自分の手を剣に見立てて曲げて見せる。
「だから、こちらの面に形状を追加する事によって力が分散する様にするわけだ」
「?…」
「…そうだなぁ。例えば剣じゃなくて細長い建物だったとする。揺れない様にするとしたらどうする?」
「柱を、追加する、かな?」
「そう、その柱がこの出てる部分だ」
溝を掘った事で出来た凸になっているところを二本の指で示しながらなぞる様にしてみせた。
「?」
「一体で作る事によって別で追加するよりの強度は高くなる。まあ、設計にもよるが」
「削っている分、弱くなりそうなイメージがありますが」
「まあ、実際、ただ削っただけ、みたいになる場合もあるから、そこは経験と腕だな」
「なるほど」
「賢者とかに成れば理屈で予想が付くのかもしれんがな。上手く形を決められれば、同じ強度で軽くしたりも出来るし、同じ重量ならより強固に出来る、らしい」
「ふふふ、あくまで聞いた話、ですか。いえ、経験談かな」
「そうだな。ただ、今回横向きの強度を重視したのには理由がある」
「理由、ですか」
「相手が魔王である以上、ただの剣で攻撃してくることは少ないだろう」
「そう、ですね。魔法か、もしくは魔法を纏った剣になるでしょうか」
「こちらにそれを受け切れる盾を用意するアテがない以上、避けるか剣で対処する必要がある」
「剣で攻撃を受け止める、と言う事ですか?」
この大陸の剣士は基本的に片手で使う剣と小さめの盾を持って戦う。
特殊な場合で大きな盾を持つ。
つまり、基本的に剣で剣を受けると言う戦い方はしない。
「剣は通常、先端から手元まで刃が付けてあるが、実際に振って斬りつけるのは先端数センチから20cm程度だろう」
「じゃあ、残りの60cmのところで受けるんですか? でも、ここも剣がまともに当たったら壊れそうですけど」
今作っている剣は全長1mほど、柄の部分が15cmにハンドガードが付いているので、刃長は80cmほどだ。
「そうだな。だから、手元はあえてそこまでかっちり刃を付けない。そして相手の剣を剣の腹で叩いて逸らす。この時、横向きの力への強度が重要になる」
自分の左手を敵の剣に見立てて、右手で横に叩いて見せる。
「そうなると、剣の強度うんぬん以前に僕がそれをする技術が要りますね」
「ああ、かなりの訓練が必要だろう。どうする?」
「やりますよ、もちろん」
「そう来ないとな。練習相手は俺がしてやろう」
「剣も使えるんですか? 師匠」
「実は俺も職業は鍛冶師じゃないんだ」
「え?」
「おおー、なかなかやるじゃねぇか」
「さすがだな」
「いいぞ、やっちまえ」
野次馬、もとい、剣士と魔王の戦いに邪魔が入らない様に魔物や魔族たちと激戦を繰り広げる仲間たちが歓声を上げる。本来ならそんな余裕がある様な戦況ではないはずなのだが、仲間たちもまた、この旅で強くなっていた。なんなら聖剣さえ有れば魔王を倒してやる、などと言える程度には。
「良いぞ、そのまま聖剣とやらを奪いとれ」
「いや、いらねえんじゃねーか、聖剣なんか」
「そうね、歴代勇者が聖剣で戦って倒しきれなかったから、今戦ってるのよね…」
「このまま倒してしまえば良いんじゃねーか」
仲間たちの思いが高まるにつれて、いや、これまでの旅で知り合った人たちの願いを受けて、小柄な剣士は力を増す。勇者の力とは人々の希望。
漆黒の剣に刻まれた祝福が輝きだす。
稀代の大魔法使いがエンチャントした魔法によって四大聖霊が剣に光を与える。
その光はまさにこの世界の命の輝きそのものだった。
人々の願いと、聖なる輝きと、命の光が、いま
魔王を貫いた漆黒の剣の溝のところから血がドバーっと(オ
ファンタジー素材名として玉鋼という単語を使いましたが、玉鋼自体は過去に存在した物らしいです。
ダマスカス鋼と同じ様に、現在は違うものの名前として使われてたりするっぽい?
この小説のファンタジー玉鋼はどちらかというと本物のダマスカス鋼に近いかも。
ドワーフの鍛冶師は製鉄しかしてませんが、どちらかというと、製鉄から鍛冶までする人、と言う設定。
剣の長さなんですが、Webを見ていると全長と刃長、刃渡り?がごっちゃになっている文章が多くて、どのくらいが平均的な物なのか良く分からないので全長1mほどにしてみました。剣道の竹刀より少し短いくらい? 知らないですけども