大沼愛②
高校生活初めての夏休み。宿題の量に驚いた。
周りから私はまじめで勉強が好きと思われているのだろうけれど、みんなと同じように宿題は嫌いだ。
特に夏休みにみんなで計画を立てて旅行に行ったり、レジャーを楽しんだりする予定はない。
光とアニメのイベントに行こうかと話をしている程度。
あとは家族でおばあちゃんの家に行くくらいかな。
バイトをするつもりもないので、空いている時間が多い。
だから宿題は早めに片づけられそうだ。
みんなは宿題を夏休みの最後にまとめてやるみたいだけれど、空いている時間がないのか疑問だ。
それに今日はちょうど夏休みの初日の一週間前。夏休になる前から宿題を始められる。
私は計画的に宿題を終えようと思う。
今日の終礼も終わったのにクラスメイトは宿題が多いよと、わーわー騒いでいる。
私は部活になんとなく顔を出している。
イラスト同好会には顔を出しているけれど、二学期の文化祭で展示するものは完成させている。
だから行かなくても何も問題はないのだけれど、部室の空気が好きだし、光と過ごす時間も大切だと思っている。
「ねえ、部室行く?」
同じクラスのイラスト同好会の光が声をかける。
「うん。そのつもり。だけど、学級委員の仕事してからになるから先行ってて」
「わかった」
光が鞄を背負って部室に向かった。
私は荷物をまとめると、職員室に向かおうと教室を出た。
「大沼さん、ちょっと待って」
私は呼び止められたので、振り返ると、佐井君が立っていた。
「え、あ、何?」
きょろきょろと私は周りを見る。
なんとなく光に見られたくないと思ったからだ。
光はちゃんと部室に行っているようだ。
「急にごめんね」
「ううん。どうしたの?」
「ほら、もうすぐ夏休みでしょ? なんかおすすめのマンガでもあったら教えてほしいなって思って」
「そ、そういう事……」
「うん。何かある?」
「うーん。ミステリー小説が好きなんだよね? じゃあ二十世紀少年とかは?」
「ああ、映画にもなってるよね。たしか来月最終章が公開されるやつでしょ?」
「うん。私もまだ読んでないんだけど、佐井君向きなんじゃないかなって思って」
「そうなんだ。面白そうだとは思ってたし、読んでみるよ。ありがとう」
「ううん。それじゃあ私も読んでみる」
「お、いいね。一緒だったら感想言い合えるしね。じゃあ連絡先交換しよう」
「え、あ、う、うん」
佐井君が赤外線を送信するので私が受信する。
今度は私が空メールを送って登録完了。
「ありがとう」
佐井君はそう言うと、手を振って帰っていった。
私は小さく手を振り返して、しばらく廊下で考えていた。
前にマンガをおすすめしたとき、読んでくれてうれしかった。
それで佐井君に魅かれていった。
だけど佐井君は光の好きな人。
私にとって光はすごく大事な人だから、佐井君への気持ちには蓋をしたつもりだった。
なのにまた気持ちが動いている。
深呼吸していったんこの件については棚に上げ、職員室へ向かった。




