平尾香苗⑥
特にあれからこーくんとの間に動きはなく、夏休に突入した。
東村山のヨーカドーのファミールに、朝から晩まで入る日々が続く。
夏休の五日目、バイトから上がるとケータイにこーくんからメールが入っていた。
――ハサミ男読み終わったよ。これすごいね。
読んでくれたようだ。これでネタバレ感想を言い合える。
更衣室で早速返信を打つ。
――返信遅れてごめん。驚いたでしょ?
――バイトだったかな? お疲れ。これはネタバレ感想を言い合いたいね。
お疲れって言ってもらえるのっていいな。そして同じこと思ってたのっていいな。つまり、このメール、いいな。
着替え終えると、更衣室から出て、シフトを確認する。
明日は休みだ。
――ありがとう。そうだよね。興奮冷めやらぬうちに感想言いたいよね。
――そうそう。本も返したいし、休みの日ない?
ちょっとカマをかけたつもりだったが上手くいった。
――明日休みだよ。
――明日は用があるんだ。他の日は?
残念。明日はだめだったようだ。
明日こーくんは何するんだろう。
ヨーカドーの社員専用通用口を出る。
――次の休みは四日後だ。特に予定もないから何時でもいいよ。
――おっけーそれじゃあ四日後で。時間は午前十時に池袋。ジュンク堂に行くのはどう?
え、本の受け渡しと感想を言うだけじゃないの?
最高なんだけど。最高のデートプランなんだけど。
あ、いや、違う。デートではないだろう。たぶん。うん、きっと。
――いいね。ジュンク堂で本見よう。
――じゃあまた四日後に。
四日後まではやりとりはなさそうなメールの終わり方だけど、まあいいや。楽しみができた。
ケータイを鞄にしまい、自転車にまたがった。