日吉瑞希⑨
「ごめんね、待った?」
清瀬駅の改札を出るとすぐに麻衣に気が付き、声をかけた。
「ううん。私も今着いたところ」
麻衣は手をあげて答える。
一昨日、としまえんから帰るとすぐに、清瀬のお祭りの花火を二人で見に行こうと麻衣に電話をした。
もちろん幸助と一緒にとしまえんに行ったことは隠して。そして私は幸助が祭りにいることを知らない体で。
予想通り、麻衣は動揺したような反応だった。気が付かないふりをしてあげた。
そのとき、麻衣が行かなくても一人で行くと伝えた。
麻衣に予定があって断られれば、一人で行って幸助と二人で過ごせる。
麻衣が私を断ったのにもかかわらず一人で会場にいたら、ひどいことをされたと言いふらせる。
この作戦は、麻衣が幸助に会いに行く気があるのであれば、乗る他ない。
幸助と麻衣が二人きりで花火を見ることを阻止するにはこれしかない。
案の定、麻衣は一緒に行こうと言ってきた。作戦勝ち。
歩くのは嫌だと麻衣が言うので、祭り会場まではバスで移動することにした。
「ザ・田舎って感じだね」
麻衣が流れるバスの車窓を見ながら言った。
「ほんとだね。でも田舎は母音から始まるからジ・田舎だよ」
大して勉強もできないのに、こういったことは気になってしまう。
「どっちでもいいよ」
麻衣に突っ込まれる。
どこからともなく咳払いが聞こえた。
私達がうるさかったからだろうか。
確かにバスは満員だし暑苦しい。イライラしているのかもしれない。
でもなんだか漫才みたいになってしまって、麻衣と顔を合わせてくすくすと笑った。
その後はバスの中で静かにしていた。
会場に着くと、ザ・お祭りという感じで賑やかだった。あ、お祭りは母音で始まるから、ジ・お祭りか。
幸助に会うのと、麻衣の計画の阻止が目的だけれど、なんだか楽しくなってきてしまった。
「ヨーヨー欲しくない?」
麻衣は全然欲しそうになかったけれど私のゴリ押しで渋々一緒にやってくれた。
案外麻衣は付き合いがいい。
ペア決めのホームルームで結構ひどいことを言われたけれど、あれはまあ水に流してやった。
幸助にペアの希望者が殺到して取り乱しただけだ。
私がやりたいと言ったくじ引きを一緒にやったり、綿あめを食べたりと楽しく過ごした。
結局麻衣が一番の友達なのかもしれない。
ただ、幸助を麻衣に取られるのは嫌なんだよな。こればっかりは嫌だな。
あ、もちろん他の女の子にもね。
「あっちの方に行ってみよう」
麻衣が言うのでついて行く。
「あ、スーパーボール掬いやりたい」
「こんなの取ってどうするの?」
「いいじゃん」
お母さんみたいなことを言う麻衣をあしらってお金を屋台のおじさんに払う。
狙いを定めて掬うけれど、ポイが破れてスーパーボールは取れなかった。
「あー掬えなかった!」
「お姉ちゃん残念だね」
屋台のおじさんとやりとりをしているときだった。




