坂浜恵美⑨
打ち上げ会場はトスカーナというイタリアンだった。
コルクの栓が積まれていたり、樽が置いてあったり、ワインボトルがきれいに並べられている。
すごくおしゃれなインテリアで、高校生にはまだ早いんじゃないかと思うようなお店だった。
コース料理の飲み放題で二時間制とのこと。私達五人は同じテーブルでかたまって座った。
「それではお疲れさまでした! かんぱーい」
自己紹介で軽音楽部の部長と言っていた先輩が乾杯の音頭を取って、打ち上げが始まった。
佐井君たちはボーカルの北山君やドラムの杉本君のことを知っているようで、「あいつかっこよく見えたな」とか「教えてもらおうかな」とか話をしている。
私も一生懸命話についていって、涼子のアシストをもらいながら会話に入っていった。
どういう経緯で「学校の七不思議」の話題になったのもう覚えていないくらい、紆余曲折しながら話題は進んでいった。
「遅くなってごめんね。今日は見にきてくれてありがとう」
本日の主役、佑衣奈が登場した。
「いいえ。こちらこそいい演奏をありがとう」
佐井君がグラスをあげ、佑衣奈と乾杯をする。
佑衣子が涼子の隣、佐井君の向かいに座る。
「イエモンを聞いたことがなかったから、他の曲も聞いてみる」
上田君がそう言うと、南君も「うん、いい曲だなって思ったし」と二人で感想を言っていた。
だけど私は、なんだか佐井君と佑衣奈の関係が気になってしまって、さっきまでうまく話せていたのに、何も言い出せなくなってしまった。
「セットリスト良かったよ。ああ、そうそう、三曲目はなんて曲? あれイエモンじゃないでしょ?」
佐井君が佑衣奈に話しかける。
「ああ、あれ? そうよくわかったね。あれはサザンのソウルボマーっていうアルバム曲なんだ」
佑衣奈が楽しそうに答えている。
「サザンなんだ」
「そう。北山君がサザン好きで、ボーカルを引き受ける代わりに一曲サザンを入れてくれって言うから必死で練習したんだ」
「それはお疲れ。それにしてもサザンってポップスのイメージあったけど、あんなハードロックな曲もあるんだね」
「そうなんだよね。北山君に楽器隊が三人でできそうな曲をいくつかピックアップしてもらって、その中から選んだんだけど、案外あるんだよね」
「知らなかったな。聴いてみる」
「うん。さくらってアルバムが比較的ハードロックかな? ソウルボマーはそのアルバムじゃないけど」
「そうなんだ。わかった、聴いてみる」
佐井君と佑衣奈が話を終えたのか、それぞれがドリンクを飲む。
やばい。全然ついていけない。何この会話。
「佐井って楽器できるの?」
南君が眉間にしわを寄せている。
「いや、できない」
「でも歌上手いじゃん。詳しいならバンドやったら?」
上田君も会話についていけてなかったのだろうか。
「目立つじゃん。いいよ。やらない」
佐井君が嫌そうにしている。
男子の会話を見ていたら、涼子がみんなにばれないように私の脚を叩いた。
涼子の顔を見ると、にこにこと男子の会話を聞いているだけ。
たぶんこれは合図だ。私も会話に参加しろという。
「やるんだったら見に行きたいな」
一生懸命言いました。これでいいですか、涼子先生。泣きそうなくらい頑張った。
「えー。いやいや、やらないよ」
佐井君が断る。
本気で言ったわけではない。会話に参加するために行っただけだ。だけど断られて悲しい気持ちになった。
「佐井はボーカルだろ? そしたら俺はベースやる」
南君ができもしないベースの弾く真似をしている。
「じゃあ俺はドラムかな」
上田君がお行儀悪く箸で皿を叩く。
「じゃあ気が向いたら声かけて? 一度戻らなきや。今日はありがとうね」
佑衣奈が席を立つ。
ちょっと上田君と南君は主役の佑衣奈を置いてけぼりにし過ぎたんじゃないか?
佐井君がまたグラスを持ったので、最後にまた乾杯をして佑衣奈を送り出した。
このままの勢いで、本当に楽器を買ってしまうのではないかと思うくらい、上田君と南君はバンド編成の話をしている。
佐井君は絶対にやらないと言っている。
私も涼子もそのバンドメンバーに組み込まれそうになったので、丁重に断る。
そんな話が打ち上げ終了まで続いた。




