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平尾香苗③

 翌日の放課後。



「おっす。おつかれ」


「おつかれ、平尾さん」



 授業中にメールで放課後に図書室で待ち合わせを取り付けた。


 来週の月曜日で学校も終わりなのでハサミ男を貸すという約束を果たすために待ち合わせた。


 なんで月曜日だけ登校しなくちゃいけないのだろう。


 たまにこういう意味のわからない日程がある。


 教育委員会が決めたのだろうけど。


 ちなみに今日は水曜日なので涼子はいない。


 テーブルに鞄を置くと、佐井君の向かいに座る。


 佐井君は悪魔の手毬唄を読んでいた。



「横溝正史読んでるの?」

 鞄から取り出したハサミ男をわたしながら聞いた。


「そう。面白いよ」

 佐井君が受け取る。

「ありがとう」


「ふーん、どう面白いの?」


「不謹慎なんだけど、きれいなんだよね、殺人現場が。わかる?」

 佐井君が目を輝かせている。


「わかる。なぜ死体にこんな装飾をしたのか、みたいなやつでしょ?」


「そうそう。わかってくれるの嬉しいな」


「私もこの感情を共有できる人がいて嬉しいよ」


「そうだよね、でもたぶん、これ、他の人には言わない方がいいよね」

 佐井君が口元に人差し指を当てて言った。


「うん、そうだね。やばい奴って思われるかもね」



 なんだか二人だけの秘密みたいだな。


 たぶんこの佐井君は、私にしか見せない一面だ。


 今の私も佐井君にしか見せていない。



「ねえ、こーくんって呼んでいい?」



 前からそう呼ぼうと思っていたわけではない。何の用意もせずに言ってしまった。


 昨日の夜、ちょっとだけそんなことを考えた程度。


 ほんのちょっとだけ。


 それにまあ、ここでしか見せない二人なら特別な呼び方をしてもいいだろうと、なぜか自分に言い訳をする。



「え、こーくん?」

 佐井君はきょとんとしている。


 そりゃそういうリアクションになるだろう。


 私自身、突然言ってしまったかな、という気持ちがある。


 それにしても、こーくんと呼ぶと言っておきながら、まだ頭の中では佐井君と呼んでしまう。



「そう、私、仲いい人はあだ名か呼び捨てがいいんだよね」


「そうなんだ。別にいいけど」


「じゃあそう呼ぶ。私のことは下の名前で呼んで」


「香苗?」


「うん」


「わかった」

 そう言ってこーくんは本を閉じた。


「じゃあ帰る?」


「そうだね」



 呼び方が変わったからといって、すぐに言うものでもない。


 意識していなかったけれど、名前って会話の中であまり呼んでないのかな?


 鞄に荷物を入れ、席を立つ。


 校舎の階段を降りるとき、駅に向かう道、電車の中、いつもこーくんといるときはミステリー小説の話。


 あの作家の新作に期待しているとか、名作だけどあの作品は読んだことがないんだとか。


 逆に言えば、ミステリー小説の話しかしない。


 ある意味、私自身が望んだ関係性でもある。決して文句はない。


 でも、なんだろう。もっと別の話もしてもいいのではないかと思う面もある


 こーくんのことも話してほしいし、私のことも話したい。

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― 新着の感想 ―
[一言] こーくんって呼ぶ感じがキュンと来ました! ブクマしよっ!
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