平尾香苗②
――ハサミ男面白かったよ。そうきたかって感じだった。これはおすすめ。
佐井君にメールを送ってケータイを閉じる。
ミステリー小説を読み終わったら、互いに感想を言い合っている。
例にもれず、ハサミ男を読み終わった後すぐ興奮冷めやらぬ勢いでメールを入れた。
寝る前に少しだけ読み進めようと思ったのに、すっかり読みふけってしまった。
気が付いたら十二時を過ぎていた。
もう佐井君は寝ちゃってるだろうな。私ももう寝よう。
ハサミ男をナイトテーブルに起き、ベッドサイドランプを消す。
部屋が真っ暗になったその瞬間、ケータイが揺れながらピカピカとフラッシュをたき、メールの着信を知らせる。
佐井君かもと思い、急いでケータイを開く。
――辛口な平尾さんにしては、なかなかの高評価みたいだね。
やはり佐井君からの返信だった。
起きてたのかな? 起こしちゃったかな? まあいいや。
――うん。これは読んでほしい。感想を共有したいな。
――平尾さんがそこまで言うなら読まなきゃな。
――じゃあ貸してあげる。明日持っていくよ。
――本当? ありがとう。
――ううん。ごめんね遅くに。また明日。
――大丈夫だよ。それじゃあまた明日。おやすみ。
――おやすみ。
たぶん私のこのメールでおしまいになる。ケータイを閉じる。
明日本を持っていくのを忘れないようにしなくちゃ。
ランプをつけ、体を起こす。
ハサミ男をスクールバッグに入れておく。
よし、これで忘れない。
再びランプを消し、今度こそ就寝。
明日どこで、何て言って渡そうかな。
あーあ、これ、たぶんすぐには眠れないや。