小川麻衣③
気持ちが逸りすぎて、待ち合わせの二十分も前に所沢駅についてしまった。
時刻は八時四十分。
待ち合わせ時間を私が朝九時にしたら、幸助は「登校してるようなもんじゃん」と言ったけれど、一分でも長く一緒にいたいと思ったので、譲らなかった。
約束の飯能行きのホームで待つ。
――今秋津駅出た。
幸助からメールが来ていた。
時間的に次に来る電車が幸助の乗っている電車だ。
――私もう所沢に着いてるから、その電車乗る。何両目?
――四両目。
――わかった。
四両目の乗車口に移動する。
幸助の私服を見るのは初めてだな。
私も気合を入れてきたけれど、変に空回りしていないといいな。
ドキドキする。
電車が見えてきた。ゆっくりと減速をしながらホームに入る。
私の前を通過したとき、風が吹き少しスカートが揺れた。
電車が停止する。
ドアが開く前に、幸助の姿が見えた。
幸助もこちらに気が付き、手を挙げてくれる。
ドアが開くと、本当は走っていきたいけれど、ゆっくり歩いて車内に入り、幸助の隣に座った。
「久しぶり」
「久しぶり? 三日前に学校で会ってるじゃん」
「いいの。夏休みは初めて会うんだから」
「そうなの?」
「そういうもんなの」
幸助は「ふーん」と言って中吊り広告に目を向けた。
いや、もっと私を見てよ。としまえんの中吊り広告なんかより、私との会話を楽しんでよ。
全く乙女心をわかってないな。まずは褒めてよ。
「麻衣、服かわいいね」
幸助が不意にこっちを見ていった。
「え、そ、そう? ありがとう。幸助もかっこいいよ」
急にやめてよ。どんなタイミングだよ。いや、まあ急でもいいや。うん、嬉しいし。
「あのさあ、幸助はアウトレットで何買う?」
本当はもっと褒めてほしいし、私の服も含めて見てほしいけど、ちょっと流れが掴めないので、話題を変えた。
「え、俺? 決めてないよ。麻衣が買いたいものがあるんじゃないの?」
「そうだけどさ。普段幸助はどこで服買ったりするの?」
「立川が多いかな」
「ルミネあるしね、一人で行くの?」
ルミネで買ってるんだ。なかなかおしゃれしてるんだ。
「大体姉貴と行ってる。なんか俺の服を選びたがるんだよね。着せ替え人形と思ってるじゃないかな? まあ俺はあまりファッションに興味ないからいいんだけど」
「そうなんだ」
仲のいい姉弟だな。だから彼女がいると思われるんだよ。
それじゃあ今日のこの感じはお姉さんのプロデュースって事か。
いいなお姉さん。幸助と買い物行って服選んであげるなんて。
ん? あれ? 待てよ。それ、今日できるんじゃない?
「じゃあ今日、アウトレットで私が幸助の服選ぶね」
「麻衣の買い物じゃないの?」
「私の買い物もそうだけど、幸助の服も選びたい」
「まあいいけど」
「じゃあ決まりね。どんなのがいいかな」
俄然楽しくなってきた。幸助との温度差を感じるけれど。
うきうきしながら入間駅でアウトレット行のバスに乗った。




