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百村りか⑨

 香苗に声をかけようとしたときだった。



「あ、幸助いた!」



 聞き覚えのある声とともに駆け出す浴衣姿の女の子がいた。


 その先に佐井君がいた。


 よく見ると駆け出した女の子は小川さんだった。


 あ、上田君と南君もいた。



「ちょっと急に飛び出さないでよ」

 日吉が小川さんの後を追っている。


「ねえねえ、花火見ようよ。甚平似合うね」

 小川さんが佐井君の腕を掴んでいる。



 私が佐井君と花火を見たい。わたしが花火を見ようと思っていたのに。


 だめだ。このままじゃ小川さんに佐井君との花火を取られてしまう。


 どうしようと思っていたら、どんっと背中を押された。


 振り返ると真剣な顔をしたさくらだった。


 意味は分かった。


 気持ちは伝わった。


 勇気が湧いた。


 私は駆け出した。



「あ、佐井君。私、ほら、夏休み後のレクの話もしたくて、来たんだけど、一緒に花火でもどうかなって……」



 焦っていったから、早口になっちゃったかな。


 でもちゃんと伝えないと。



「夏休みなんだから学校の話やめようよ」



 小川さんが、こっちを向いて、にらみながら言ってきた。


 すごい怖い。たぶん佐井君には見せない顔だ。


 だからといってここで引くわけにはいかない。


 にらみ返すことはできないけれど、負けたくない。


 そんな緊張感が一瞬訪れたと思ったら、後ろから声がした。



「おっす、こーくん。来たよ」

 香苗が手を挙げて佐井君に挨拶をしている。



 こーくん? 来たよ? え、あだ名で呼んでるの? え、約束してたの?


 ちょっと二人、どうなってるの?


 小川さんも香苗の発言に動揺しているように見える。


 そんな佐井君は、香苗に軽く手を挙げただけだった。視線は私たちの後ろを見ている。


 私も振り返ってみると、そこには涼子と、B組のたしか坂浜さんが手を振っていた。



「何? 幸助、みんな友達?」

 飲み物のを売っている屋台からきれいな女の人が顔を出した。



 この人がお姉さんだろうか。



「幸助君モテるじゃん!」

 冷やかすようにもう一人かわいい人が顔を出した。


「あ、佐井先輩、お久しぶりです」



 矢野口さんと大沼さんも来ていた。


 たしか矢野口さんは佐井君と同じ中学校出身だからここにいても不思議ではない。


 でもタイミングが良すぎるような気もする。わかっていて来たのだろうか


 それにしてもD組が勢ぞろいだ。


 なにやら南君の妹さんも来ているようで、兄妹で話をしている。


 佐井君とお祭りを楽しもうと考えていたのは、私だけじゃなかったのか。


 他の子たちも佐井君がお祭りにいることを知っていたのか。


 そして花火を見ようと思っていたのだろう。


 もうすぐで花火が打ち上がる。


 また選んでもらえるだろうか。


 でもくじはない。佐井君はどうするのだろう。



 ドン



 不意に花火が打ち上がった。


 暗い夜空を温かい光がきらきらと照らす。


 佐井君も花火を見上げている。


 これじゃあもう二人っきりで花火を見ることはできない。残念だけど、諦めよう。


 でも佐井君の一番近くで見たい。


 さりげなく佐井君の隣に並んで花火を見上げた。

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