百村りか⑦
お祭り当日。
清瀬駅はすごい混んでいた。
決して大きい駅ではない。お祭り自体も他市と比べて大差ないものだ。
だけど、たぶん花火があがるということだけでこんなにも客を呼べるのだろう。
かく言う私もその一人。
いや、厳密には違う。花火が真の目的ではない。
真の目的は佐井君。その副産物として、花火を見ようと思っている。
さくらとの待ち合わせは午後四時の清瀬駅。私の方が早く着いた。
さくらから、あと七分とメールが入っていたけれど、この人込みだと、改札口で待つのは厳しい。
ペデストリアンデッキで西友までつながっているので、涼しい西友の化粧品コーナーで待っていよう。
さくらにメールで伝えると、了解と返信がすぐにきた。
清瀬駅の利用は初めてだ。
ここに佐井君も来るのかな? など思いを巡らせていると、黄緑の浴衣を着たさくらがやってきた。
「お待たせ。ごめんね」
「ううん、全然大丈夫だよ」
「もしかして、ここに佐井君も来るのかな? なんて考えてた?」
「え、い、いや、全然。全然そんなこと考えてないよ」
「まったく、こんな化粧品コーナーに男子の佐井君が来るわけないじゃん」
「化粧品コーナーじゃなくて、西友」
「ほら、考えてたんじゃん」
「あ、いや……」
さくらがけらけら笑っている。
ちゃんとさくらに佐井君の話してよかったな。
少し二人で商品を見てからバス停に向かった。
バス停はかなり混んでいた。私たちと同じように浴衣の女の子がたくさんいたので、目的は同じだろう。
会場は駅から離れている。歩いていく人もいるようだけれど、私たちは覚悟して満員バスに乗ることにした。
バスに揺られること十分。会場に到着したバスからほかの乗客のとともに流れ出される。
「ふぅ。大丈夫だった?」
「うん。大丈夫。大変だったね」
会場に着いたが、思ったより広かった。
都内とは思えないほど空が広く、高い建物はなかった。
昼と呼ぶには遅く、夕方と言うには早い時間。夏独特の時間と空の明るさが一致しない時間帯。
祭り客で騒がしい会場だけど、盆踊りをしているらしく、遠くから音頭とそれに合わせた太鼓の音が聞こえる。
奥の方に櫓が建っているのだろうか。
マップを見ると、ドリンクを売っている店はいくつかあって、どれが佐井君のいるお店かわからなかった。
「佐井君捜す?」
「ううん。たぶん会えるんじゃないかな? とりあえず、見て回らない?」
「うん、そうしよう」
二人並んで出店を見て回る。
おなかは空いていたけれど、焼きそばを食べたら、あんず飴やチョコバナナが食べられなくなるという話になった。
焼きそばの屋台の前を通るたび、においに心を持っていかれそうになりながらも、ぐっとこらえた。
目的のあんず飴の的屋に着く。
お金の用意をしていると、先に買っていたさくらが、おじさんにじゃんけんで勝って二本もらっていた。
次の私も勝つぞと意気込んでいると、さくらはあんず飴を一本私にくれた。かっこいいなって思った。
お祭りのために車両の乗り入れのできなくなっている駐車場の車止めに二人で腰を掛けてあんず飴を食べる。
「おいしいね」
笑顔でさくらが言う。
「うん。勝利の味がするね」
「勝ったのは私だけどね」




