平尾香苗①
夏休み明けのレクは、佐井君とペアになれなかった。
まあ別にいいんだけど。私はできたら佐井君がいいかなって思っていた程度だから。
ただ、他の子たちが結構ガチ目に佐井君とのペアを狙っていたので驚いた。
逆に私がペアにならなくてよかったかもしれないとも思うこともあった。
やっぱりあの一件で、少しクラスが変な感じになったから。
運よくペアになれたりかなんて、麻衣に嫌われたんじゃないかと思う。
麻衣に嫌われるとなかなか辛いものがあるだろう。
でも何よりもすごいのは佐井君かもしれない。
あれだけ女子が集まったら、普通、意識して会話がぎこちなくなったり、天狗になったりしてもおかしくないのに、誰に対しても変わりがない。
肝が据わっているといか、鈍いというか、まあたぶん、彼は大物だ。
その佐井君の変わらない対応のせいで、りかを含む他の子たちに麻衣も強く出れない部分があるのだと思う。
私も今でも変わりなく佐井君と接することができているのは、それによるものだったりするのだろう。
バイトのない日は私も図書室でミステリー小説を借りたり、一緒に帰りながらミステリー談義をしたりと、佐井君との交流が保てている。
せっかく趣味の合う唯一の友達なのに、失いたくはない。
佐井君も私とは同じ趣味を持っている同胞だと他の子に言っているようで、気兼ねなくミステリー小説の話ができる。
メールのやりとりも頻繁にするようになった。
この間までは佐井君に彼女がいると思っていたので、メールは最小限にするよるに心がけていたけれど、彼女がいないとわかった今、気兼ねなくメールを送れるようになった。
佐井君とはいい関係だと自分では思っている。
別にこれは恋愛的な意味ではない。同じ趣味を持つ仲間として、という意味だ。
ただいつも会話はミステリー小説のことばかりなのだ。
いや、ばかりではない。ミステリー小説のことだけだ。
それが気にかかっている。
少しだけ。
少しだけ気にかかっている。
そう、ほんの少しだけ。