百村りか⑤
終業式。
校長先生が舞台に立ち、夏休みだからって浮かれるなよ、と全校生徒に注意喚起をしている。
たぶん生徒の半分以上が聞いていない。この時点で浮かれているのだから、注意喚起はもう少し早めにするべきだ。
私も話は聞いているけれど、内心では結構浮かれている。
教室に戻ると担任の佐藤先生から改めて夏休み中の注意事項を聞かされた。
待ちに待った夏休みだ。楽しみで仕方がない。
だけどしばらくみんなと会えなくなると思うと寂しさも少しある。
特に佐井君とは会う約束はしていない。
そんなことを思っていたら、佐井君と目が合った。
「じゃあまたね、百村さん」
「あ、うん、またね、佐井君」
手を振ってくれたので、こちらも振り返す。
佐井君は南君と上田君と帰っていった。
それに気が付いた小川さんが慌てて教室を出て行った。
「りか、帰ろ」
後ろからとんとんと肩をたたかれた。
「あ、さくら。うん。帰ろう」
二人で教室を出る。
駐輪場までしか一緒にならないけど、そこまでいつも二人で帰るのがこの間からの日課みたいなものになった。
「ねえ、どこかでお茶していかない? 夏休みの計画とか立てたいし」
いつも大体私から誘うのだけど、今日はさくらが珍しく誘ってきた。
「いいよ。行こう行こう。どこがいい?」
「駅前のミスドは?」
「いいね。ドーナッツ食べよ」
まだ夏休みじゃないけど、学校が終わったその瞬間から楽しいことが始まった。
これは幸先がいいかもしれない。
二人でミスドに向かう。
さくらに合わせて、二人分の鞄を乗せた自転車を押して歩く。
他愛もない会話。
私もさくらも好きなドーナッツはエンゼルフレンチで一致した。
お店に入ると、数名同じ小平中央高校の生徒の顔があった。
各々好きなドーナッツとドリンクを頼んで席に着く。
私はエンゼルフレンチとオールドファッション。
さくらはエンゼルフレンチとハニーチュロ。
「私も新しい浴衣買うことにしたんだ」
中学生の頃に買った浴衣を家で着てみたら、少しきつくなっていた。
横ではなく、縦に大きくなったからだ。断じて横ではない。
「そうなんだ。じゃあ一緒に選ぼう」
「うんうん。楽しみだな」
さくらが紅茶にガムシロップを入れる。
私はエンゼルフレンチをかじる。
「そうそう、お祭ってりかの住んでる国分寺市のお祭り?」
「あ、いや、違う。清瀬市のお祭りなんだ……」
なんだか気まずい。後ろめたさがあるからか。
「清瀬の? 八月の第三週の土日って国分寺もやってるんじゃなかった?」
「そうなんだけどね。なんていうか、ほら、地元の友達と会うのあまり嫌だなって思ってさ」
咄嗟に嘘をついてしまった。
さくらは「そう……」といって、伏し目がちにストローを刺した。
「なんか、清瀬のお祭って花火が上がるらしいよ。見たくない?」
清瀬のお祭りにした理由を付け加える。
「そうだね。うん、私は見たい。でもりかは私と花火見たいの?」




