平尾香苗⑩
久しぶりに浴衣を着た。
いや、当たり前か。夏のシーズンしか着ないんだから、浴衣を着るのはみんな久しぶりか。
サイズは去年買ったもので問題なく着れた。太っていたらどうしようと思ったけれど、体形を維持できているのはバイトである程度体を動かしているからだろうか。
一人で行くお祭りだし、目的は花火の時間帯だから、他の祭客より少し遅れて清瀬に降り立った。
おとといのうちにこーくんから祭り会場と屋台の場所を教えてもらっていたので、直行する。
始めて清瀬駅に降りたけれど、特に寄ることもない。
バスは時間帯をずらしたとはいえ、混んでいて座ることはできなかった。
会場に着くなり、屋台を目指す。
結構時間がぎりぎりになってしまった。少し速足で進む。
ケータイでこーくんからのメールを確認して、目的の屋台まで向かう。
そろそろ着くころだ。あの屋台だろうか。
あれだ。わんちゃんがいるからあの屋台だ。
「あ、幸助いた!」
少し離れたところから声がして、浴衣姿の女の子が駆けている。
麻衣? 声と後ろ姿ですぐにわかった。
そして麻衣の駆け出した先に甚平を着たこーくんがいた。
麻衣の後を瑞希が追う。
そして私の後ろからりかが現れた。その後をさくらが駆けている。
予想外の展開にあっけにとられて、立ち尽くしてしまった。
「夏休みなんだから学校の話やめようよ」
りかの言葉に麻衣が食いついている。
なんだかバチバチやってるな。おーこわ。
二人のやりとりにこーくんも困っていそうだし、助け船でも出してあげるか。
「おっす、こーくん。来たよ」
片手をあげて挨拶をする。
こーくんも手をあげ返してくれる。
麻衣とりか、上田と南がこちらを見てきょとんとしている。
え、何? ああ、そうか。こーくんって、みんなの前で呼んだことなかったか。
「何? 幸助、みんな友達?」
「幸助君モテるじゃん!」
理穂さんが屋台から顔を出す。
来てたのかよ、理穂さん。
ということは隣のあの人はこーくんのお姉さんだろうか。
「あ、佐井先輩、お久しぶりです」
おお、光も来てるのか。
まあ清瀬の人だからいてもおかしくないか。
佐井先輩って言ってたし、やっぱりこーくんのお姉さんだ。きれいだな。
こーくんのお姉さんを見ていたら、こっちでは南の妹さんもきていたようで、兄妹ゲンカみたいなことをしている。
なんか、考えていた展開と違うな。
そう思った時だった。
ドン
花火が打ちあがった。
自然と頭が上に向き、「おー」と声が出る。
こーくんと二人で花火を見ようと思っていたけれど、まあしょうがない。こーくんだしな。
それに、花火会場で二人だけで過ごせなくても、私はこーくんと天の川で一緒に過ごせたし、まあいいや。
私は花火を見上げながら、かご巾着のバッグにぶら下げたイーブイをぎゅっと握った。