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平尾香苗⑧

「あれ? 幸助君?」

 どこからともなく現れた女性がこーくんに声をかけた。


「あ、理穂さん。こんにちは」


「なになにデート?」

 私とこーくんを交互に見て理穂さんと呼ばれる女性はにやにやしながら言った。


「い、いや、そういうわけじゃないです。ミステリー小説好き同士で買い物です」

 こーくんが頭を掻きながら言う。



 間違いじゃないよ。うん、間違いじゃない。


 そう思いながら聞いていたら、レジの順番が回ってきたので、会計を済ませる。



「それをデートって言うんじゃないの?」


「だからそんなことないですよ」



 理穂さんと呼ばれる女性にしどろもどろしながらも、こーくんの会計の順番になる。



「まあいいや。ところで何買うの?」


「森博嗣ですよ」


「えー嬉しい。読み続けてくれてるの?」


「はい」

 会計を済ませてレジ袋を受け取りながらこーくんは答える。



 この会話だと理穂さんと呼ばれる女性がまるで森博嗣のようだ。



「おすすめした甲斐があったよ」


「そうですね。理穂さんのおかげでミステリー好きになりましたし」


「そうかそうか。お姉さんは鼻が高いぞ」



 こーくんってこの人の影響でミステリー小説を読み始めたのか。



「あ、そうだ。薦められた狂骨の夢、読みましたよ」


「どうだった?」


「面白かったです」


「感想聞かせてよ」


「いや、本屋ですよ。ネタバレになるので今度でいいですか?」


「それもそうだな。まあじゃあ今度ね」


「はい。ところで理穂さんは何か用があったんじゃないですか?」


「あ、そうだった。受験の参考書買おうと思ってたんだ。こんなところで話をしている暇はない。じゃあね」


「はあ。さようなら」



 こーくんの言葉は届いていないだろう。なかなか勢いのある人だった。


 私も京極夏彦の狂骨の夢はこーくんに薦められて、シリーズを順を追って読んだけど、あの理穂さんという女性の薦めだったのか。



「あの人だれ?」

 理穂さんという女性がいなくなってからこーくんに聞いた。


「ああ、理穂さんって言って、姉貴の友達。俺のミステリーの師匠みたいな人」


「ふーん。そうなんだ」



 その後、言葉が続かなかった。


 私にはミステリー小説について話せる人は、こーくんしかいない。


 でもこーくんには私以外にも別の人がいたんだ。


 いや、別にそれは普通にあり得ることだ。何も不自然じゃない。


 だけどなんだろう。裏切られた気持ちになっている。全然裏切りじゃないこともわかっているのに。


 黙ったままジュンク堂から出る。外は暑い。不快だ。



「もうすぐお昼だし、何か食べない?」

 こーくんがジュンク堂の前の複雑な交差点の信号を待っているときに言った。


「そうだね」


「何がいい?」


「なんでも」


「ああ、そう……。そうだな……じゃあミルキーウェイに行く?」

 こーくんは少し間を開けながら言った。


「あそこってパフェのお店だったよね? それじゃあお昼にならないんじゃない?」


「まあね。でも香苗が喜ぶかなって思ったから」



 私が少しぶっきらぼうに答えていたからだろうか。気を遣ってくれたのだろうか。


 こんなはずじゃない。今日は楽しむつもりなのに。


 でも私が喜ぶと思ってと言われたら自然に口元が緩んでしまう。


 なんだよそれ。ずるいな。



「そ、そうなの? あ、ありがとう。じゃあお昼食べたらパフェ食べよう」


「おっけー、そうしよう。あーよかった。最近甘いものにハマってるんだけど、あの店、男だけじゃ入りにくいでしょ? 香苗と池袋に来れてよかったよ」


「そ、そう? それはよかった」



 とりあえずサンシャイン60通りに行こうという話になると、こーくんは「俺が持つよ」と私の買った本を鞄に入れてくれた。


 二人でサンシャイン60通りを目指して歩く。


 特に何を食べるかは決めず、いいところがあったら入ることにした。



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