プロローグ①
佐井幸助は今年の夏まつりは楽しめそうにないと思っていた。
姉貴から、姉貴の大学生になった先輩が祭りで屋台をやるから手伝えと言われ、面白そうなだと思って安請け合いしてしまったからだ。
飲み物を売るだけの店だけど、裏からペットボトルの入った段ボールを運んできて、水槽の中に入れ、段ボールをたたんで、縛って、ごみをまとめて、の繰り返し。
重労働。
だからといって俺にお駄賃はない。差し入れの焼き鳥やらかき氷をもらえる程度。まあそれでも嬉しいけど。
救いなのは、上田と南も楽しそうだと手伝ってくれていることだ。
手が欲しいと姉貴に言われていたので、二人を誘ったら、快く引き受けてくれた。
たぶん二人もこんなに大変だとは思っていなかっただろう。
だけど三人で同じ作業をしているので、苦しさも三等分だ。本当に助かる。
そして今日で仕事も最後。
今になってみれば、案外楽しかったと思える。いい思い出が作れたんじゃないかな。
「これ運んだら終わりだな」
南が言う。
「そうだな、あと一息だ。案外あっという間だったな」
上田が答える。
今は三人で、買い足してきた段ボールを運んでいる。
駐車場から屋台まで何往復したことか。
地面がコンクリートだったら台車で運べたのに、あいにくぼこぼこした土のため手で運んでいる。もう腕がパンパンだ。
しかし、これで最後と思うと、力が出てくる。
これからもう少しで花火の時間になる。
花火の時間は客の動きが若干止まり、花火終了後はそのまま夏まつりが終了となるため、俺たちがいなくてももういいと言われている。
まつりの醍醐味である屋台の食べ歩きはできそうにないが、花火は見れそうだ。
急いでこの段ボールを運んで自由時間としよう。
上田と南もそう思っているのか、運ぶ足が軽やかに見える。
そろそろ姉貴のいる屋台のすぐそばまで移動したかなと思っていたところ、前を歩く南が止まった。
「お、なんかいろいろ集まっているな」
南が訝しがるように言う。
「ほんとだ……。たぶん、佐井にようがあるんだろうな」
南の隣に上田も止まる。
浴衣の祭客が行きかう道に、二人が並ぶので、前がよく見えない。
酔っぱらいが喧嘩でもして人だかりができているのだろうか。
二人の間を覗き込むように首を伸ばす。