最初で最後の
夕方になって夜も近い頃、ホテルに入った。せっかくだからと高級ホテルに泊まることにした。ホテルの広いロビーで我が前をゆき、黒い髪を揺らしてはしゃぐ冬月さんはあまりに可愛らしく、本当に少女そのものであった。
その後カウンターにてなにやら書類を書く冬月さんの幼い横顔に見惚れた。
そして彼女の提案でなんと二人で同じ一つの部屋に泊まることになった。
部屋は今まで泊まったことのないくらい所謂ゴージャスな感じの広い部屋で、冬月さんは可愛らしく「すごい」なんて言って少し驚き、そして我が面を見上げては微笑むのであった。俺が早速窓から夜景を見ようとすると彼女はそれを止めて「楽しみは後にとっておこうよ」と言ってまた笑った。だからとりあえず荷物だけを部屋に置いて、ホテル内にあるレストランへ行った。
レストランもまたえらく広く、わかりやすく大人っぽい雰囲気であった。とても高校生の男女が二人で来るようなところではなかったがそれがまたワクワク感を煽った。
二人で同じステーキを注文した。運ばれてくるのをワクワクしながら待っている冬月さんは無邪気な幼女のようで、無論可愛らしかった。
そうしてじきに運ばれてきたステーキに二人揃って声を上げた。ワインも運ばれてきて、その時ウェイターが彼女の幼い容姿を見て少し眉の角度を変えたようであったが、なにかを言われることはなく、なんとか未成年とバレずに済んだようであった。
「俺の背が高いおかげだな」と冗談を言うと彼女は少し睨むようにして「私より誕生日遅いくせに」と言ってきた。そして二人で笑った。
ステーキを口に入れて二人揃ってまた歓喜の声を上げた。ワインにも口をつけ、俺が彼女に「なんか大人みたい」と言うと彼女は「だね」と言ってまた子供っぽい顔で笑った。
部屋に戻って二人で大きなベッドに飛び込んだ。まさにふかふかであった。そして俺が虚空に向かってハライチのように「ふかふかのベッド」と言うと、彼女も俺の真似をして「ふかふかのベッド」とその可愛らしい声で言った。そうしてまた二人で笑った。
「あっ」と言って起き上がり俺はカーテンの前まで行く。彼女も気づいたように俺の横まで来る。そうして勢いよくカーテンを開く。また二人揃って声を漏らした。そこには星空のような街の姿があった。しばらく二人で見惚れ黙っていた。じきに顔を合わせて少し微笑んだ。そしてふいに冬月さんの顔がなにか切なそうに変わったのが見えた次の瞬間、彼女は俺にキスをした。初めてのキスだった。
どれくらいそうしていたか、彼女は唇を離し、俺の顔を見上げて少し恥ずかしそうに微笑んだ。その彼女の顔は赤く、それは照れからなのか、ワインのせいなのか、どっちもなのか。
そしてその後彼女は少し目を逸らしてから、上目遣いで「先にシャワー浴びてきて」と俺に言う。そのドラマやらでしか聞いたことのない言葉にドキッとしながらもなんとか冷静を装って頷き、シャワーへと向かった。
シャワーから出て何度か深呼吸をした。するとふいに軽いめまいがして、余計に鼓動が早くなった。
そして冬月さんは「じゃあ」と言って俺と代わるようにしてシャワーへ。
一人ベッドに座って色んなことを考えた。色々な感情が我が胸中で渦巻いていた。耳にはずっと彼女の浴びるシャワーの音が流れ込んできて、また軽いめまいがした。ベッドに寝転び、ひたすらに天井を見つめる。しばらくそうしているとシャワーの音が止まる。俺は身体を起こし、また深呼吸をして己を落ち着かせた。
そうして冬月さんがシャワーから出てくる。鼓動が早い。彼女は可愛らしい白い部屋着を着ており、どうやら部屋に天使が舞い降りたようであった。
彼女はこちらに少し微笑み、そうしてなにも言わずに俺の横にゆっくりと座った。鼓動はさらに早くなる。じきにどちらからともなく手を繋ぐ。そうしてからどれくらいの時間が経ったのか、えらく長く感じたがもしかしたら十秒程度だったのかもしれない。俺がなにもできないでいると彼女の方からゆっくりと顔を近づけてきて、我が頬にキスをした。そうして俺も彼女の方へと向き、改めてキスをした。冬月さんは俺の肩に手を置いて、少し首を伸ばし、俺に縋るようにキスをする。そうして彼女は俺に体重をかけ、俺はそのまま後ろへ倒れる。彼女は俺の上に乗り、そのまま俺の唇を包むようにキスをする。そうして唇を離し、目を見つめながら「はじめて?」と小さな声で訊いてくる。正直に頷くと彼女は優しく微笑み、慣れたような手つきで俺の服を脱がしていく。彼女自身もその可愛らしい白い服を脱ぐ。控えめな胸が見え、浮き出た肋が見えた。
それからのことはあまり覚えていない。ただ、俺の上で可愛らしく愛おしい声を上げるいつもと違う冬月さんの姿があるばかりだった。おそらくそれはあっという間で、すごく暖かかった。それが俺にとっての、最初で最後のセックスだった。
大きなベッドに俺は沈み、腕の中には冬月さんが居て、力のない俺に、また幼女のような姿に戻って抱きついていた。そうして二人でなんともない話をした。主に学校でのことを話した。彼女は楽しそうに、友達と遊んだ時の話なぞもしていた。いつの間にか夜も更けて、二人で同じ布団に潜った。冬月さんは先程までとは打って変わって、なにか怯えるような声で「朝が怖い」なんて言って俺に強く抱きついた。だから俺も強く抱きしめた。彼女はじきに静かに泣きだし、しばらくしてそのまま俺の中で眠りについた。
無邪気な幼女のように可愛らしく眠る冬月さんを抱きしめ、その小さな顔を見つめながら、なんだか、ずいぶん遠いところまで来たな、なんて思った。色々な感情が渦巻くばかりで眠れないと思っていたが、じきに俺も眠りについた。
あたりまえだが、いつも通り朝は来た。
目が覚めると冬月さんはまだ俺の中で眠ったままで、カーテンの隙間からは朝の光が差し込む。街はもういつも通りに動いているのであろう。ただ、俺と彼女に、次の朝が来ることはない。これが最後の朝だ。
そうして未だ眠る彼女の寝息を聞きながら、何故今こんな状況にいるのか、何故俺が彼女とこんな遠くの地まで来たのか、そのきっかけの時のことを思い出していた。




